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第5回 オンライン講座

コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス

 [オンラインイベント「福祉機器Web2020」における特別企画によせて]
 新型コロナウィルスの感染拡大は、日本を含む世界中の「人たち」に生活様式の変更を迫り、それに伴い製品、サービス、システムも変更が必要になっています。
 世界中の「人たち」には、国際福祉機器展H.C.R.で紹介される製品やサービスなどの対象者である高齢者・障害のある人たちも当然含まれています。けれども、製品・サービス・システムがコロナ禍で変更される際に、高齢者・障害のある人たちを考慮した配慮は、なされない場合が多く見受けられます。また、高齢者・障害のある人たちへの配慮がされた製品・サービスも、当事者や関係者に情報として届いていない場合も多く見受けられます。
 コロナ禍で国際福祉機器展H.C.R.は本年、中止となってしまいましたが、今般、その主催者である一般財団法人 保健福祉広報協会が運営するH.C.R.Webサイトで開催されるオンラインイベント「福祉機器Web2020」において、「コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス」の特別企画コーナーを設置することとなりました。本コーナーでは、毎回、さまざまなテーマを設け、紹介していきます。

[1]コロナ禍で

 新型コロナウィルスの感染拡大により、集うこと、大勢で食事をすること、実際のモノを見て・触って・聴いて使い勝手を確認すること、多くの人とともに映画を観る・音楽を聴く・講演を聞くといった、これまでは当たり前のようにできていたこと、もしくは推奨されてきたことが、いま自粛せざるをえない事態になっています。そんななかでというよりも、そんななかだからこそ、今まで使用していなかったツールが見直され、進化しています。その一つがオンラインです。
 オンラインでは、大小の会議、シンポジウム、各種イベント、食事会や飲み会など、多岐にわたって利用が急激に広がっています。けれども、これは画面と音声での繋がりであるため、急激な広がりのなかで、声を文字や手話で伝える、画面表示を音や音声で知らせるなどといったアクセシビリティへの配慮は充分整っているとはいえません。そのようなかで、障害のある人たちも参加しやすいオンラインでの試みが徐々に広がってきています。
 たとえば聴覚に障害のある方がたを対象にした文化財に触れる活動や、視覚に障害のある人に向けた音楽教室の取り組みなどです。今回は、音声や音を有効に活用し、視覚に障害のある人たちのために、オンラインでヨガ教室を全国で展開している『チャレンジド・ヨガ』の取り組みをご紹介します。

[2]オンライン・ヨガ

 「やってみたいな、ヨガ…」
 一人の視覚障害の方のことばをきっかけに2013年8月、埼玉県所沢で視覚障害の人のためのヨガクラス『チャレンジド・ヨガ』がスタートしました。
 スタートさせた髙平千世さんは、平日に視覚障害の人たちの自立支援を行い、土曜、日曜にヨガの指導を地域で行っていたため、「みんな、できる!」と思ったと言います。
 共生社会を目指し、①定期ヨガクラス、②地域イベント、③地域クラスの普及、④講演・研究発表、⑤サポーター勉強会を軸に活動を展開してきた7年目の昨年、全国23か所に広がった定期クラスは、今年新型コロナウィルスにより、すべてのイベントが中止となってしまいました。
 そこで、考えたのがオンライン・ヨガ。参加者へのアンケートを実施したところ、115通の回答と貴重な意見が届きました。「オンライン・ヨガに参加したい・興味ある」が89%、「オンラインシステム経験あり」が30%。この結果を受け、接続やカメラ位置などの事前サポートを整えることから動き出し、6つめの活動の軸、「オンライン・ヨガ」が生まれたのです。

オンライン・ヨガ 参加者画面

[3]事前準備

 次に接続サポートを開始。モニター体験会を実施し課題点を浮き彫りにしました。「無音だと不安」「ポーズが合っているか不安」などの声が寄せられました。そこで音での切替え、ポーズチェックタイムを設けるなど、工夫と改善を繰り返しました。
 第1回は2020年5月。6月には7周年企画として関東地区と関西地区との合同で開催することができました。7周年企画では4歳から83歳までの延べ130名の参加がありました。高齢、脚部に障害がある、小さい子どもがいる、出かけたい先が遠方であるなど、さまざまな理由で外出に不安がある人たちの新たなニーズも見えてきました。

オンライン・ヨガ 開始の呼びかけ

[4]実際のヨガ教室

 では、ここで実際にヨガ教室に参加しているAさんに、教室の流れを紹介していただきましょう。

 
『チャレンジド・ヨガ』定期クラスの様子
(写真右:Aさん)

 メールで送信されてくるクラスの案内に必要事項を記載して、参加申し込みをします。その時に、事前のZoom利用のサポートを申し込むことができます。クラスで使用する機能は5つです。当日は、時間に余裕をもって入室し、カメラ位置や座る位置を先生がたに確認していただきます。
 ティンシャ(はちを小型にした金属性音響楽器)が鳴ったら、一人ひとり短く自己紹介をして挨拶を交わします。ここから、先生以外はミュートにして、各ポーズ、3ステップでのヨガの始まりです。1ステップめでは、ポーズの詳しい説明を受けます。先生のポーズを見てそれをまねて行う一般的なオンライン・ヨガと、ここが大きく異なる点です。2ステップめは練習とポーズチェックタイム。わからない時や不安な時は、手を挙げるなどして先生に質問したり、チェックをお願いします。最後の3ステップめは、自分でポーズを完成させます。画面から先生の姿も消えています。
 毎回、4つほどのポーズを行います。終わりは、安楽座で合掌し、笑顔であいさつを交わします。ここでみんながミュートを解除して、クラスの感想などを和気あいあいと話し合います。  

[5]めざすところ

 オンライン・チャレンジド・ヨガが掲げためざすことは「意識改革」と「区別化」の二つです。意識改革とは、自宅で人と比べずにできるという、よい所に焦点をあてるということです。また、区別化とは本来のヨガ、心の眼で観る・感じるヨガということ、です。
 7周年の後、参加者から次のような感想が届きました。「やればできるというチャレンジ精神と勇気を植えつけてくださった」、「全国さまざまな方と交流しながらできるヨガは、夢のような時間でした。オンラインでも他の方がたの温かい体温を感じることができました」。視覚障害当事者の方がたからのこうした感想に対し、「困難な時こそ、社会福祉、ヨガの原点に返れ」と当事者の人たちが教えてくれたと高平さんは言います。
 「どんな時もできるという希望をもち、どんな時も楽しむ心を忘れず、どんな時も皆と共に、水のように柔らかく、強く、変化し続けていきたい。これからの『未知の道』も皆とならできるとワクワクしている私が今、ここにいます」、そう話す彼女の笑顔には、あきらめない力がみなぎっていました。

※[参考] チャレンジド・ヨガ ホームページ
http://challengedyoga.com/online/tel/