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第9回 共遊玩具

コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス

 [オンラインイベント「福祉機器Web2020」における特別企画によせて]
 新型コロナウィルスの感染拡大は、日本を含む世界中の「人たち」に生活様式の変更を迫り、それに伴い製品、サービス、システムも変更が必要になっています。
 世界中の「人たち」には、国際福祉機器展H.C.R.で紹介される製品やサービスなどの対象者である高齢者・障害のある人たちも当然含まれています。けれども、製品・サービス・システムがコロナ禍で変更される際に、高齢者・障害のある人たちを考慮した配慮は、なされない場合が多く見受けられます。また、高齢者・障害のある人たちへの配慮がされた製品・サービスも、当事者や関係者に情報として届いていない場合も多く見受けられます。
 コロナ禍で国際福祉機器展H.C.R.は本年、中止となってしまいましたが、今般、その主催者である一般財団法人 保健福祉広報協会が運営するH.C.R.Webサイトで開催されるオンラインイベント「福祉機器Web2020」において、「コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス」の特別企画コーナーを設置することとなりました。本コーナーでは、毎回、さまざまなテーマを設け、紹介していきます。

[1]はじめに

 多くの人は、コロナ禍により自宅で過ごす時間が多くなっています。余暇時間でも、今まで以上に読書、映画(DVD)・テレビ、ラジオなどを鑑賞する時間が増えていると思われます。そんな時間、家族でゲーム、一人でパズルなど、玩具と共に過ごしてみてはいかがでしょうか?そうした玩具やゲームにもアクセシブルなものがあります。
 1990年4月、日本玩具協会に目や耳の不自由な子どもたちも共に遊べる玩具(共遊玩具)を普及・促進するための委員会が発足しました。

[2]共遊玩具のマーク

 同委員会では、目や耳の不自由な子どもも一緒に遊べるおもちゃには、「盲導犬」と「うさぎ」のマークを該当するおもちゃのパッケージやカタログに表示することを推奨しています。

盲導犬マーク・うさぎマーク

 目が不自由な子どもも一緒に遊べる盲導犬マークが表示される玩具には、下記の基準が設けられています。
 1.スイッチのあるおもちゃには、
   1)スイッチの状態が触覚でも確かめられるようになっている。
   2)スイッチON側に凸点が付いている。
   3)電話玩具等の「10キー」の「5」に凸点がある。
   4)ボリューム/増減スイッチに、大きさの異なる凸表示がしてある。
   5)シートスイッチは、凸状になっている。
 2.ワンプッシュスイッチは音あるいは振動などで状態が分かる。
 3.電池蓋と電池ボックスには触覚でわかるように表示されている。
 4.操作部は見やすくなっている。
 5.必要な識別は触覚でも可能になっている。
 6.リアクションを音やことばでわかる。
 7.ずれにくく、あるいは、ばらばらになりにくくなっている。
 8.点字や付属シールで対応されている。

 そして、耳の不自由な子どもも一緒に遊べるうさぎマークが表示されたおもちゃには、
   1)ゲーム・クイズなどは、正解・不正解を、見てわかるように表示される。
   2)ゲーム・クイスなどでは、失敗などを振動で知らせる。
   3)動いていることが目で見てわかるようになっている。

[3]オセロ

 盲導犬マークが表示されているおもちゃの一つにオセロがあります。石の表裏が黒と白、8×8のマス目の盤にその石を交互におき、自分の色の石で相手の石を挟むと、自分の色に変えることができ、盤上に64個の石が並べられたとき、どちらの色の数が多いかで勝敗が決まります。その単純さと奥深さから現在、世界65か国以上に広がり、6億人が楽しんでいるといわれています。
 1973年、当時のツクダ(現在はメガハウスで販売)から製品化され、日本オセロ連盟も設立、多くの人が楽しみ始めました。しかし、市販の「オセロ」は、石の黒と白の区別が、目の見えない人には識別できませんでした。また、手で触って石を確かめようとすると、線で描かれたマス目では石がすぐに隣のマス目に移動してしまいます。
 視覚障害者用具を扱う日本点字図書館(以下、日点と略)は、目の不自由な人からの要望を受け、同社に、視覚障害者用のオセロの開発を依頼しました。何度も協議し、石の黒面には4重になった凸状の線が付けられました。さらに盤の表面は、障子の「さん」のようなマス目にし、指で石を確認しても容易には隣のマス目に石が行かないように工夫されています。そして1977年、「盲人用オセロ」(現在はオセロUD)として、日点から他のオセロと同じ価格で販売されたのです。それまで日点で扱う視覚障害者用ゲームといえば、市販のものに点字シールを貼る必要がありましたが、このオセロは、二次加工の必要がないことでも画期的な製品でした。

オセロUD

 さらに、2004年、オセロは進化を遂げました。オセロで遊びたい人のなかには、石を指でつまめない人もいます。そこで考えられたのが、石をつまむことなく、石と盤を一体化し、指一つで石が黒・白・盤の色(緑)へと回転するという仕組みです。しかも、視覚障害者用オセ口の工夫(黒・白を触覚で識別)も、そのまま採用されています。
 オセロはその誕生期から、裾野を広げながら進化しているゲームなのです。

指で回転させることができる「一体オセロ」

 盲導犬マークが表示されている玩具には「オセロゲーム」以外にも、手で触って全体像が理解できる車や動物のミニチュアや、立体になっている地図やキャラクターなどがあります。
 また、うさぎのマークが表示された玩具には、字や絵を書いてまた消せるボードや、声や音に反応して動く動物のぬいぐるみなどがあります。
 メーカーがこれらのマークをパッケージに表示するためには、一般社団法人 日本玩具協会が作成したガイドラインに適合しているかのチェックを同協会に依頼し、合格したものがマークを表示できる仕組みになっています。
 審査に合格した玩具は共遊玩具と呼ばれ、毎年6月に行われる東京おもちゃショーに合わせて、企業の枠を超えて協会が作成する共遊玩具のカタログに掲載され、各地の視覚障害、聴覚障害関連機関、玩具店、メーカーにも配布されます。

共遊玩具のマーク

 マークを業界で統一する意味は、作る側、販売する側、そして購入する側が、共通の情報として把握できることです。いくらメーカーが目や耳の不自由な人たちのことを考慮して作っても、それらの情報が共有されなければ、せっかくの工夫が必要として人たちに届きません。その意味でも、この2つのマークはメーカー、流通、消費者が情報を共有するための大きな役割を担っています。
 共遊玩具は、下記の日本玩具協会のホームページで紹介されています。
 https://www.toys.or.jp/pdf/kyoyu/barrier_free_toy_catalog_2020.pdf