文字サイズ

第10回 みんなで共生社会を

コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス

 [オンラインイベント「福祉機器Web2020」における特別企画によせて]
 新型コロナウィルスの感染拡大は、日本を含む世界中の「人たち」に生活様式の変更を迫り、それに伴い製品、サービス、システムも変更が必要になっています。
 世界中の「人たち」には、国際福祉機器展H.C.R.で紹介される製品やサービスなどの対象者である高齢者・障害のある人たちも当然含まれています。けれども、製品・サービス・システムがコロナ禍で変更される際に、高齢者・障害のある人たちを考慮した配慮は、なされない場合が多く見受けられます。また、高齢者・障害のある人たちへの配慮がされた製品・サービスも、当事者や関係者に情報として届いていない場合も多く見受けられます。
 コロナ禍で国際福祉機器展H.C.R.は本年、中止となってしまいましたが、今般、その主催者である一般財団法人 保健福祉広報協会が運営するH.C.R.Webサイトで開催されるオンラインイベント「福祉機器Web2020」において、「コロナ禍におけるアクセシブルな製品・サービス」の特別企画コーナーを設置することとなりました。本コーナーでは、毎回、さまざまなテーマを設け、紹介していきます。

[1]はじめに

 2020年、世界は新型コロナウイルスの感染拡大のため、経験したことのない恐怖と不安に直面しました。日本では、感染拡大に伴い、2020年4月7日に政府から緊急事態宣言が発令され、同年5月25日に解かれるまで、多くのコトが止まりました。
 そのなかで、人との接触をなるべく避けることに加えて、感染を防ぐモノや手洗いなどの習慣が日常化していきました。
 これまで、このコーナーで紹介してきた「マスク」「消毒液」は、接触する人に感染させない、接する人からの感染を防ぐためのモノです。
 次に紹介した「インターホン」や「宅配ボックス」は、ふだんであれば接触する場面で、接触を避けるために役立つモノです。
 そして第5回、6回で紹介した「オンライン講座」と「電話リレーサービス」は、コロナ禍のなか、人とのコミュニケーションをなんとか取り戻そうとする、多くの人たちに利用が広がっていった、またはさらに広がることが予想されるツールです。
 また、もっと身近でのコミュニケーションを支援する道具が、「コミュニケーション支援ボード」であり、「筆談器」であり、さらには障害の有無に関わらず、ともに遊べる「共遊玩具」です。

 

誰かの不便さや便利さをみんなの使いやすさに

[2]新しい生活様式にもアクセシビリティを

 これまで紹介してきたモノはどれも、コロナ禍での感染拡大を予防するために障害のある人も含めた、より多くの人が利用可能なもの、アクセシブルな製品です。けれども、コロナ禍で新たに開発された製品やサービスの多くは、障害のある人たちが使えなかったり、使いづらいモノです。それは、製品を作ったりサービスを提供する人たちに、コロナ禍で障害のある人たちにどんな不便さがあるか、製品やサービスにどんな工夫をすればよいかが伝わっていないことが大きな要因だと思います。もしくは、知っていてもコストが高くなるために、障害のある人のための工夫は後回し、もしくは、行わないとしているような場合もあるのではないかと推測します。
 私たちが店や施設に入る前に行われる検温は、入口に設置されたモニターに顔を近づければ自動的に検温が開始され、なかにはその結果を音声とモニターへの文字表示で行う機器も開発されています。
 そうした製品の要素は大きく2つに分類されます。表示部と操作部です。表示は、目で見る表示を想定して開発される場合が多いのですが、見ることが困難な人にとっては、音や音声など聞く表示と、手で触れることのできる表示があると独力で理解することができます。
 逆に音や音声の表示だけであれば、聞くことが困難な人には理解することが困難になってしまいます。
 操作部も同様に、手で操作することができる人、それが困難な人など、操作する方法が多様であることを理解しながら作られ、また購入されることが重要です。
 先ほどの自動検温機は購入すると30~40万円する機器なので、どこの店でも購入するというわけにはいかないと思いますが、方法はあります。東京千代田区にある韓国料理店では、店頭で店の人が非接触式の体温計を、お客さんの額付近にかざして検温します。その体温計は音声が出るわけではありませんが、検温が終わるとお店の人は体温をお客さんに伝え、目の不自由な人にもわかるようにしています。また、耳の不自由な人の場合には、表示画面を示します。さらに、その店員さんは、マスクではなく、話す時の口のかたちが耳の不自由なお客さんにもわかるように透明なフェースシールドをしているのです。

[3]まとめ

 障害者権利条約が作られる時、障害当事者や団体から何度も発言されたのが「私たち抜きで、私たちのことを決めないで」です。誰もが暮らしやすい「共生社会」づくりは、長い歴史のなかでは始まったばかりと言っても過言ではありません。こんにち、そこに新型ウイルスの感染拡大が襲いかかってきていますが、私たちはやり方を工夫しながら、「誰かの不便さ」を「みんなの便利」に変えるために、みんなで意見を出しあい、次の世代に繋ぐことができる「共生社会」を多くの人たちとともに作っていけたらと思います。

 

アクセシブルな会議