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eスポーツがもたらす共生社会の実現に向けて

福祉機器最前線

 高齢者・障害者の自立と介護を支援する福祉機器は、さまざまな場面で日常生活に浸透してきており、最新のテクノロジーを活用した研究・開発が一層盛んに進められています。
 今後の普及が期待される、各分野における最前線の福祉機器の開発・活用動向をご紹介するとともに、その機器によってもたらされる影響などについて考察した、有識者によるレポートを掲載します。

[1]共生社会と障害者

 共生社会とは、多様性を尊重して支え合う全員参加の社会のことをいいます。共生社会を実現するには、個々の違いや欠点、障害のあるなしに関係なく、適材適所で活躍できる機会が必要です。
 しかし、まだまだ、障害者と健常者が同じ目標を共有して協力できる社会的場面が少ないのが現状です。そこで、注目されているのが、eスポーツの活用になります。

[2]eスポーツは出会いの場

 eスポーツは、コンピューターゲームを使った競技のことです。現在、国民体育大会(国体)やアジア版のオリンピックと言われているアジア競技大会(2022年)でも採用され、企業間の対抗試合や全国高校生eスポーツ選手権など、地域活性化のコンテンツとしても注目を集めています。eスポーツがこれほどまでに注目されている理由の一つに、言葉の違い・年齢・性別・体格そして、障害の程度に関係なく競いあえることが挙げられます。これまで接点がなかった方たちと出会える場になり、一般参加者と障害者が一緒に対戦することも珍しくありません(写真1)。

 

写真1 障害のある方と一般参加者が一緒の舞台に(左:筋ジストロフィープレイヤー
右:NTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室 eスポーツ担当
兼 NTT東日本eスポーツチーム“TERAHORNS(テラホーンズ)”キャプテン 金 基憲さん

 企業eスポーツチームキャプテンの金さんは「これまで障害のある方と戦った経験はなく、手加減したらよいのだろうか?」と、最初の出会いは戸惑いだったと話します。それでも、ゲームがスタートすると「どのような戦略でくるのか?どのような対戦相手なのか?」と、いつもどおりに本気で試合を楽しめたそうです。こうしたフラットな関係になれる場がeスポーツです。フラットだからこそ、お互いに支え合える土壌が生まれます。
 北海道の病院で入院生活をおくる吉成健太朗さんは、手足が不自由な脊髄性筋萎縮症(SMA)という難病です。身の回りのことすべてを介護者に頼る生活ですが、道具の工夫でパソコン操作を可能にし、リーグ・オブ・レジェンド(LOL)という5人で対戦するオンラインゲームのチームリーダーです(写真2)。 吉成さんは現在、入院生活をしているため、気軽な外出はできない状況にあります。「eスポーツがあったおかげで、いろんな人と出会えたし、なにより、自分を知ってもらう機会になったことがありがたい」と話します。先日、一般高校のeスポーツ部から交流試合の申し出がありました。2試合ほどの試合時間でしたが、予定していた時間よりも早く勝敗がつきました。力量の差が大きく、吉成さんのチームが勝利する一方的な試合運びになったからです。対戦高校は、近日中にLOLの大会に参加予定とのこと。そこで、吉成さんは「もしよければ、2試合目の時間をコーチングにあてませんか?」とeスポーツ部に提案をします。「このゲームは知識量と戦略が特に必要なゲーム。これまで教えてくれる人がいなかったのかな?」と考え、高校生を応援したいとコーチングを申し出たそうです。ゲームを通してどのように支え合えばよいのか、ここから始まる何かを私にも感じさせてくれる出来事でした。
 eスポーツの出会いをきかっけにさまざまなものが生まれます。障害のあるなしに関わらず、上手なプレイは努力の裏返しで多くの人を惹きつけます。その努力をそのままコーチングという形で活かせる場もあるでしょうし、ゲーム開発、または、メンタルの強さを別な領域の仕事に活かす方法もあるかと思います。こうした発見がある、誰もが参加できるeスポーツですが、このスタートを妨げる要因があります。

 

写真2 ベッド上でプレイする吉成さん

 

[3]ゲームを楽しむために

 手の力が弱いとゲームコントローラのボタンが固くて押しづらく、筋肉の緊張が強く、力が制御できない場合は、ボタンの押し間違いや、音楽ゲームのような早いリズムに合わせられません。また、見えづらさがあると画面からの情報が読み取りにくく、他にも、色覚異常があると、色だけで情報を判別するゲームのプレイはできません。このような運動・視覚・聴覚・認知・発話にそれぞれ困難さがある場合、ゲームプレイがストレスになる場合もあり、諦めてしまいやすい傾向にもあります。
 しかし、最近のICT関連のさまざまな支援技術の変化は目覚ましく、自分にあった方法を見つけられると、家族や友人、その他大勢とゲームで楽しむことも可能になるのです。

 

写真3 ゲーム操作の工夫例

 ゲームコントローラをうまく持てない場合は、キャラクターの操作部分、アクションボタンがそれぞれ自由に配置できることがポイントになります(写真3)。例えば、顎のジョイスティックでキャラクターを操作して、両手で押しやすいスイッチを使うことで、動きの早いゲームも楽しめます。最近は、目の動きを利用する視線入力デバイスでゲームができる方法も開発され、選択肢が多くなり、道具を工夫すれば始められるようになりました。
 こうした、ゲーム操作の配慮された工夫は、ゲームアクセシビリティと呼ばれています。ゲームメーカーでも自社製品に、ボタンの再配置や、画面の見やすさをサポートするアクセシビリティ機能を標準で用意する動きが活発になってきました。こうしたアクセシビリティへの関心は、米国のCVAA法(21 世紀の通信と映像アクセシビリティ法)に基づき、アクセシビリティ機能が義務づけられたことが背景にあります。アクセシビリティは障害者のためだけのものではありません。多様性を叶える手段として存在します。
 これまでアクセシビリティ機能はメニューの探しにくいところにボタンがありましたが、最近発売された中には、カスタマイズを前提としてメニュー画面の見つけやすい箇所にボタンが配置しているゲームも登場してきました。このUI(ユーザーインターフェイス)にみられるように、多様な、使いやすさを模索するクリエイターの意識の変化を感じます。

[4]ゲームアクセシビリティの課題

 ゲームアクセシビリティの選択肢は多くなりましたが、必要な人に情報が届いていないのが現状で、実際に道具を試せる機会もありません。また、身体に合った道具や方法でないとパフォーマンスを発揮できないばかりか、無理な方法で使い続けることで身体への悪影響も懸念されます(写真4)。eスポーツの取り組みでは、必要に応じて個人のパフォーマンスを引き出す、楽な操作環境づくりが必要です。例えば、画面はモニタアームを使って顔の正面に来るように設置します(写真5)。しかし、何が良い方法か、自分ではなかなか気づけない場合もあり、そのため第三者によるアドバイスが受けられる体制づくりが必要だと思います。

 


 海外ではすでにゲーム操作支援の民間団体があり、障害特性に合わせた工夫情報や道具が入手でき、自分の可能性を発見できる機会が提供されています (SpecialEffect:https://www.specialeffect.org.uk/)。 国内ではこのような取り組み事例はまだまだ少なく、今後相談できる箇所が増えていくことが求められています。一般社団法人ユニバーサルeスポーツネットワーク(ユニーズ)が行う活動も、誰もがeスポーツに参加できるための支援になります。具体的には、アクセシビリティ情報の発信の他、ゲーム操作支援の個人相談や体験会(写真6)のサポートを重ねています(https://uniesnet.com/)。

 

写真6 ユニーズでの体験会の様子

[5]eスポーツ大会の課題

 eスポーツ大会によっては、ゲームメーカーの公式コントローラのみと参加条件が明記されていることがあります。これは大会運営のしやすさや、選手間のトラブルを避ける措置かと思われますが、ゲームアクセシビリティが整ったとしても、この条件のままでは同じ舞台に立つことは難しいと思われます。解決方法として、レギュレーションの修正が考えられます。例えば、事前に大会運営者に工夫デバイスを相談すること、自動制御を行う機器を利用していないことや、デバイスフリーの参加枠というのもあるでしょう。どのような配慮があると誰もが参加できる形を目指せるのか、今後の課題です。

※本文中の写真はご本人の了解を得て掲載しています。