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福祉施設の実践事例

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オランダ研修旅行から学んだこと

種別高齢者施設
開催年2016
テーマ医療的支援
地域貢献
オランダ研修旅行から学んだこと

社会福祉法人 堺福祉会 特別養護老人ホーム ハートピア堺

はじめに

ハートピア堺では以前より、特別養護老人ホームの利用者が孤立しないよう、家族やボランティアが積極的に来たくなるような施設を目指してきました。そのようななか、職員研修の講師からオランダのユマニタス財団が経営する高齢者住宅を紹介してもらい、現地訪問する機会を得ました。私たちはそこで学んだことを活かし、回想法ができる「懐かしミュージアム」を併設した地域サロンを開設しました。

オランダ研修旅行の成果

オランダで見学したなかでも特に印象深かった2つの住宅「ユマニタス・ベルフヴェフ」と「ユマニタス・アクロポリス」(資料18)です。ユマニタス財団は、居住者がケアを受けるだけのナーシングホーム施設から脱却し、居住者がそれまで生活していたような環境で過せる場所にしようという考えに基づき、施設を運営していました。
資料19にユマニタス財団の施設の現状をまとめました。私たちがこの研修旅行で得た成果は2つあります。1つは、居住者を孤立させないコミュニティづくりをユマニタス財団がどのように実践しているのかを現地で確認できたこと。そしてもう1つは、ユマニタス財団のスタッフたちが与えられた使命に沿って自由に考え、行動する仕組みを学べたことです。以下、それぞれについてお話しします。

  • 居住者を孤立させないコミュニティづくり

各居室の玄関前は家族とくつろげるスペースになっていて、高齢者住宅といった雰囲気は一切なく、居住者たちは自宅にいるように生活していました。また、地域の中で生活しているように感じさせる仕組みの1つとして、施設内にスーパーマーケットやレストランが設けられ、近隣住民も利用していました。
そのなかで特に印象深かったのは、かつて施設で使われていた家具や調度品を利用した「想い出ミュージアム」(資料20)です。昔のダイニングやベッドルーム、トイレ、洗濯場のほか、雑貨店や靴の修理屋などが再現され、展示物に触ることもできます。外部からの来場者の姿もあり、居住者がボランティアで解説役を担っていました。
これらは全て、居住者が他人とコミュニケーションを取りやすくするための試みです。居住者が幸せや喜びを感じるのは、日常生活であったことを誰かと話して共有できたときです。だからこそ、このようなコミュニティ環境を整え、居住者が孤立しない施設運営を行っているのです。

  • ユマニタス財団のスタッフたちが行動する仕組み

環境を整えるだけではなく、実際にケアをするスタッフの教育も大切です。ユマニタス財団では理事長がスタッフに対して、「居住者の幸せや楽しみに寄り添うこと」がケアを実行するうえでの使命であると直接伝えています。
また、資料21に挙げた4つの方針を掲げています。これらは上層部からのトップダウンで示されますが、実際に居住者からの要望をかなえるためにどう行動するかは、スタッフからの意見や提案によるボトムアップで決まります。トップダウンだけではスタッフのやる気を削いでしまい、ボトムアップだけでは重大な問題が発生した際に経営者がスタッフに責任を押しつけてしまうことにつながります。したがって、このようにトップダウンとボトムアップを併用した運営は大変参考になりました。

研修で学んだことを取り入れる

オランダ研修の成果を活かし、私たちの法人で何ができるかを考えました。すると、スタッフから、回想法ができる「懐かしミュージアム」を併設した地域サロン開設の提案がありました。「孤立させないコミュニティづくり」と「スタッフからのボトムアップ」を実践するこの取り組みをなんとか実現しようと考えました。
ユマニタス財団のような大規模な施設は敷地面で難しいですが、高齢者に限らず、地域の方々がゆるくつながる「場」として、(1)回想法ができる、(2)要支援になるまでの一般高齢者がゆるいつながりを求めて利用できる、(3)会議やミーティングができるというコンセプトの地域サロンを目指しました。地域の方に相談すると「それはいいことだ」と好意的に受け取ってもらえ、開設場所として集合住宅の空き部屋2部屋をご提供いただきました。その部屋をサロン利用するための改修工事は施工業者任せにせず、どのように改修すれば活動しやすい場になるのかをスタッフが一緒に考えながら進めました。そうして、地域の方と施工業者とスタッフが協力してできあがった施設には、所在地である堺区三宝町の町名を冠して「ふらっと三宝」と名付けました。
以後、私たちは定期的にミーティングを重ね、地域から懐かしい物品を集める方法や、チラシなどの地域への広報、他事業所や学校への参加依頼などをスタッフ主導で考え、最終的に施設長が許可するというボトムアップで進めています。6畳間が2部屋あり、最大10人ほどが同時に利用できます。畳敷きであることがよかったのでしょう。特養利用者と一緒に行くと、かつての生活を思い出したように自然と正座になり、活き活きとした表情で話をします。その元気な姿に、そんな能力や表情があったのかとスタッフが驚くこともあります。
また、ホワイトボードやスクリーン、プロジェクターを設置し、小規模な教室やイベントなども開催できるようしたことで、高齢者以外の地域の方も「ふらっと三宝」を訪れます。これにより子どもから高齢者までが一緒に過ごし、経験や遊びを教え合うといった、かつて地域の中であったような風景を見ることができるようになっています(資料22)。
このような活動状況を目の当たりにした自治会や民生委員など地域の方々から、開設時間を長くして参加者を増やし、高齢者の閉じこもりを減らしてほしいという期待のコメントをいただきました。また、「身近に集う場がほしい。そこで自身の知識や経験を活かして活躍したい」と思っていた地域住民や、地域の人々と関係を持ちたいと思っていた他の介護事業所からもこの取り組みへの共感を得ることができ、私どもが運営する毎週水曜日の正午〜15時以外にも、このサロンが活用されています。こうした現状から、地域とつながることができているのではないかと思います。

まとめ

ユマニタス財団では、与えられた使命に沿ってスタッフが自由に考え、行動することで様々な取り組みが生まれていました。当施設としても、上司からの指示待ちでなく、自分たちに何ができるのかを自発的に考え、実践できるようなスタッフを育てていきたいと考えています。ユマニタス財団への研修旅行後に、スタッフの提案から生まれた「ふらっと三宝」の取り組みは、その試金石となっています。
もちろん、課題はあります。当初は、取り組みに積極的に参加したくても、本来の業務との兼ね合いがあるために諦めざるを得ないということがありました。そのため、委員会を立ち上げて業務調整することで、計画的に参加できるようにしました。現在の課題は「ふらっと三宝」に参加する人が増えたがために、全体を把握することが難しくなっていることです。これについてもスタッフの意見を尊重しながら解決していきたいと思います。
社会福祉法人は今、地域に貢献する先駆的・開拓的な取り組みを求められています。特養などの施設を地域の中で目立つ存在にするのではなく、地域サロンのような取り組みで地域の方々とつながり、私たちも地域の一部となることが大切です。それにより、自治会や民生委員の地域活動とつながり、地域ニーズを把握できるようになり、よりよい地域包括ケアができるようになると考えます。