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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

コミュニケーションロボットで見えてきた介護の未来

「PALRO」導入の効果と課題
種別高齢者施設
開催年2016
テーマ介護ロボット・福祉機器
介護ロボット
コミュニケーションロボットで見えてきた介護の未来

社会福祉法人 横浜市福祉サービス協会
特別養護老人ホーム「新鶴見ホーム」

はじめに

コミュニケーションロボットを導入した効果や課題、運用を通じて見えてきたロボットと介護の未来について展望します。
3年前の国際福祉機器展でコミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」を知り、当施設でも導入することになりました。導入に賛成した者からは「人手不足の中でなにかの役に立つのではないか」「新しい試みで特色が出せるのではないか」という意見がありました。しかし、私は当時、導入に反対の立場でした。ただでさえ人員が不足している介護現場に慣れないロボットを導入すれば、かえって職員の負担が増えると考えたからです。また、費用に見合う効果を得られるのかという疑問もありました。

ロボット任せではうまくいかない

PALROが届いてもしばらくは活用されませんでした。導入ありきで、活用方法について明確なビジョンを描いていなかったのです。転機が訪れたのは導入して6か月後、導入に賛成した者が人事異動で当施設を離れ、反対した私が残ることになったことでした。“どうせ費用を支払うのならば使わなければもったいない”と一念発起し、デイサービスで活用することにしました。
現場の職員たちは、レクリエーションなどはPALROにすべて任せられると期待をしました。しかし実際は、職員がPALROに付き添って高齢者とうまく橋渡しをする必要がありました。職員の期待が大きかった反動もあり、活用はすぐに頓挫してしまいました。私は、職員への説明をメーカーの方に任せ、操作面のことしか伝えていなかったことがよくなかったと反省しました。本来なら、まずこのロボットを導入した意図などをもっと丁寧に職員へ説明すべきだったのです。
その反省を踏まえ、活用の場を特養に移して仕切り直しました。まず、現場の職員の中からPALROの担当者を決め、導入意図を説明しました。さらに、
「PALROができないこと」(下記参照)を理解し、ロボット任せにせず、職員がその能力を引き出すという方針に変更しました。

PALROでは対応が難しい領域

  • 「空気を読む」こと
  • 利用者対応や様子観察
  • 気づき、気遣い
  • タイミングのよい声掛け
  • 臨機応変な対応
  • 緊急対応 など

さらに、集団でのアクティビティだけでなく、入居者が個別にPALROを利用する時間を設けました。その結果、資料1のように活用場面が拡大し、資料2の ような効果が上がりました。

高齢者とロボットは相性が良い

これからコミュニケーションロボットの導入を検討されている施設の方にとって、一番心配なのは、高齢者が怖がったり嫌がったりしないかだと思います。しかし実は、高齢者とロボットはとても相性が良いのです。私の経験では、嫌悪感を示した高齢者は今までひとりもいませんでした。高齢者は「会話は成立するけど利害関係がなくて裏切らない」というロボットの本質を理解し、そのような存在を求めているのではないかと推測しています。
70歳代の男性の入居者Aさんの事例です。Aさんは入居当時から職員に対して暴力的な言動があり、いつも険しい表情をして、ベテランの介護職員が接しても心を開きませんでした。しかしPALROを前にするとそれまで見たことのない穏やかな表情をされ、その変化に職員一同驚きました。それまで、ロボット活用に対して否定的だった私もこれはすごいと思い、賛成の立場に変わりました。
Aさんの変化を資料3にまとめました。笑顔が増えて表情が豊かになり、コミュニケーションが取りやすくなりました。しかし、言動が全て変わったわけではありません。PALROから離れると表情が険しくなることがあります。なぜPALROの前では笑顔のAさんが、職員と2人になった瞬間に、いつもの険しい表情にもどってしまうのか。その理由を対人援助職である私たち一人ひとりが考えて、最終的には人間にしかできないケアの質を上げていくことが必要だと考えています。

介護職員の力量が問われる

PALROを活用する場面は資料4のように、3つの領域があると考えています。空気を読む、気遣いをするといったところは人間でないとできません。一方で、高齢者の集中力を引き出す、本音を引き出すというところは、ベテラン職員よりもロボットのほうがうまくいく場合があります。だから、職員が主体となってロボットの強みを引き出しながら、介護の質を上げていくことが大切だと思います。その際、必要となるのが職員のコミュニケーションスキルです。PALROは職員のスキルを見える化するのに役立ちます。職員の育成の一端を担えると思います。
一方、人間でもロボットでも活躍できる領域は、レクリエーションなどがありますが、この領域はとても狭いので、ここでの活用に期待しすぎると、ロボットの活用が頓挫する恐れがあるので注意が必要です。

まとめ

PALROを導入して分かったのは、単にロボットへ丸投げするのではなく、人間が主体となってロボットの能力を引き出すことで、ロボットの導入効果が最大限に得られるということでした。
高齢者介護は、ロボットの進化の影響を最も受ける業種の1つだと思います。私たちは、ロボットスーツのように身体機能を補助する実用的なロボットの性能向上を求めていくという、言わば“一本一本の木を見る”ことも大切ですが、同時に“森全体を見渡す”ようにロボットとどのように接し、活用していくのかという視点も持ち合わせなければなりません。ロボットを活用するための心構えや知識・技術の向上を図る人材育成を行うことで、介護の質の向上に必ずつながると考えます。