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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

人的、物的介護手段の融合による“床から抱え上げない” 移乗介助

“してあげる”介護から“良くする” 介護へ
種別高齢者施設
開催年2016
テーマ介護ロボット・福祉機器
人的、物的介護手段の融合による“床から抱え上げない” 移乗介助

特別養護老人ホーム「ゆうあいの郷」

はじめに

当施設では、床上臥床対応の利用者に対して2人介助での抱え上げる移乗介助方法を行っていました。この方法について職員にアンケート調査を行ったところ、職員の8割以上が大きな身体的、精神的負担を感じていることがわかりました。
さらに、この方法により利用者の座位保持能力などの残存機能を活かせず、自立支援の機会を奪っているのではないかと考えました。実際に対象となる利用者の能力を評価したところ、床からの立ち上がりが困難であっても、長座位や端座位の保持や、一定の座面高からの立ち上がりは一部介助があれば可能でした。
そこで、介助負担の軽減だけでなく、利用者の残存機能を最大限に活かすため、福祉機器の選択も含めてさまざまな方法を検討しました。その結果、既存の人的介護手段(移乗技術)と物的介護手段(福祉機器)とを融合させた新たな「床から抱え上げない」移乗介助方法を考案、実践し、床からの移乗での「介助負担軽減」と「自立支援」の実現に至りました。

新たな移乗介助技術の創造と実践

床からの移乗介助で負担を軽減する代表的な方法として、移乗用介護リフトを用いた方法があります。介助負担の軽減のみを考えれば、これで問題は解決するはずです。しかし、対象者の多くは床からの立ち上がりが困難であっても、座位を保つ能力や、一部の介助で立ち上がれる能力があります。
ここで、あらためて介護の理念に立ち返り、「移乗」を「活動」と捉えました。日々行われる移乗場面では、このような能力をもっと活かす方法を検討しなければならないと感じたのです。私たちは主に在宅で使用されていた福祉機器の電動昇降座いすと、移乗ボードを活用した「持ち上げない介助技術」により、床からの移乗の自立支援と介助負担軽減を創造、実践しました。

  • 一定の高さからであれば立位を取れる利用者への介助方法

(1)利用者を移乗側に寄せ、座面を一番低くした座い すを布団に対し、約30度の角度で横に付ける
(2)臀部を少し上げてスライドボードを差し込む
(3)適宜介助し、長座位を取る
(4)介助者は片膝立ちの姿勢で体を密着させ、自身の体重移動で押し、座いす座面に向かって滑らせる
(5)利用者を支えながらボードを引き抜く
(6)肘掛けを下ろし、立位が取れるくらいの高さまで座面を上昇させる
(7)靴を履いて立位を取ってもらい、車いすに移っていただく

この新技術導入に向けて、資料15のように計画を立てました。準備期間では対象利用者の評価として理学療法士協力の下、筋緊張評価スケール(MAS)による移乗直後の筋緊張の評価や、座位・立位姿勢評価、起立動作評価、筋力評価により、座位・立位に関わる残存能力の評価を行いました。また、体格差のある利用者への実用性を高めるべく、担当職員として小柄な女性3名を選定し、担当職員への介助負担調査、マニュアル作成を行いました。そして、この計画をもとにPDCAサイクルに沿って取り組みました。

  • 取り組みの結果

対象利用者は1日平均8回の移乗が行われています。今回の新技術の導入により、対象利用者の移乗直後における筋緊張が軽減し、残存機能を活かした座位や立位の機会も増えました。また、資料16、17は担当職員への介助負担変化に関するアンケート結果です。痛みの評価スケールであるNRS(NumericalRatingScale)を活用して身体的、精神的負担を数値化して評価しました。
移乗時に感じる重さに関しては、全く重さを感じないを0、最も重く感じた場合を10として評価し、資料16のように全員大幅な改善が見られました。精神的負担に関しては、最も負担を感じない場合を0、最も負担を感じる場合を10として評価し、資料17のような結果になりました。移乗時に感じる身体の痛みに関しては、導入前には全員が「腰に強い痛みあり」との回答でしたが、導入後には全員「痛みなし」となり、劇的な改善が見られました。安全面については、実践期間中のヒヤリハット、事故報告書の提出はなく、無事故で行えました。

まとめ

今回、私たちは利用者のアセスメントを行い、支援方法を試行錯誤した結果、既存の方法にとらわれることなく、その能力に応じた支援方法を導き出すことができました。さらには、人的介護手段と物的介護手段の融合により、介護支援技術の広がりとその可能性を実感することができました。今回の経験を活かし、今後は利用者の能力を十分に把握しないままで介護者本位に福祉機器や介護技術を選択するのではなく、自立支援の理念に基づき、利用者の能力を正確に把握した上で、利用者本位の福祉機器や介護技術を選択することを徹底し、「してあげる介護」ではなく「良くする介護」の実現を目指します。