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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

BCP(事業継続計画)の実践事例

東日本大震災の経験と次なる災害への備え
種別障害者施設
開催年2016
テーマ災害時の危機管理・BCP、復興
BCP(事業継続計画)の実践事例

社会福祉法人若竹会

被災して感じたBCPの必要性

私どもの法人は岩手県に所在しており、2011年の東日本大震災で大きな被害を受けました。今回は、被災後の対策を皆さまにお伝えすることで、災害の備えについてお考えいただければと思います。
若竹会は、岩手県の太平洋側にある宮古市、岩泉町、山田町、田野畑村を有する、非常に大きな福祉圏域に位置しており、面積としては、神奈川県がすっぽり入るくらいです。
震災時は、山田町にある老人保健施設が完全に津波にのみ込まれ、70名の入所者と職員が亡くなりました。宮古市だけでも、死者が420人、関連死が53人、行方不明者が94人、家屋倒壊が2,098棟となっています(2016年2月末時点/資料8)。

私どもは、被災から半年後、法人として災害時にどのような対応が必要なのかを整理しました。しかし、速やかな情報発信と管理、労働力の確保など、さまざまな項目が挙がりながらも、なかなかすべてを解決する方法を見つけられずにいたのです。
そんな中で出会ったのが「BCP」です。震災時、私たちが考えたことの一つに「災害時における社会福祉法人・施設の使命」があります。まずは、利用者と職員、法人を守ることが大切ですが、それだけでなく、やはり公益性のある法人として、地域に手を差し伸べる力を日頃から備えておかなければならないと感じました。実は、この考え方がBCPにつながっていくのです。

BCPの概要と作成のポイント

BCPとは、事業継続計画のことです。多くの激甚災害では、発生した瞬間からサービスが大きく低下します。自らの施設や職員、利用者が被害を受けるだけでなく、地域の方も被災し、他法人などからは、避難した利用者の受け入れを依頼されるなど、災害時特有のニーズが発生します。こうした中で、できるだけ短時間でサービスを復旧するのに必要なのが、BCPなのです。
これは国際規格にもなっており、社会福祉業界独特のものではありません。私どもはこのBCPを導入すれば、災害後のサービス復旧に時間がかかったり、何カ月経っても元の状態に戻せなかったりといった事態を、避けることができると考えました。資料9はBCP作成のポイントです。
まずは「初動対応」で生命を守り、次にBCPを発動し、「災害対策本部」を設置します。ここでは主に安否確認や情報収集、情報発信を行います。それから「事業継続・復旧活動」として、対策や方針を決定していきます。
ここでもう一つポイントとなるのが「ボトルネックの特定」です。これは、復旧を長引かせる原因が何かを特定するということです。例えば施設職員の8割が被災してしまった場合、サービスを継続するためにはまず人材を確保しなければなりません。災害時は、人や物、情報やお金などの資源をハイペースで配分し、共有して、地域にも還元することが求められます。

BCM体制の構築

BCPを計画のままで終わらせず、実際に機能させるために必要なのがBCM(事業継続マネジメントサイクル)です(資料10)。
私どもは法人内の組織としてBCM体制をつくり、月1回は委員会活動を行い、年1回は職員全員で総合訓練を行います。そして、その結果を踏まえてBCPを見直し、常に最新の状態にしておくのです。やはり、どんなにしっかりした避難訓練のマニュアルを作成していても、まったく見直しをせずに数年経っていたら、いざというときにほとんど機能しないといった可能性もあります。したがって、定期的に訓練などをして計画を診断し、必要があれば見直すことが大切です(資料11)。

2度目の災害でBCP発動

2016年8月31日、私どもはこのBCPを実際に発動することになりました。台風10号が勢力を保ったまま岩手県沿岸に上陸したのです。豪雨による大規模な河川の氾濫や土石流で、多くの家屋が全半壊する被害を受けました。
私どもの法人では、台風で浸水しそうな施設の利用者を、別の施設に分散して移動し、道路の寸断で帰宅できない職員には、施設で宿泊してもらいました。また、普段、子どもを保育所に預けて働いている職員には、保育所の休園に対応し、子連れで出勤できる体制をつくりました。BCPに則った対応を行ったことにより、震災時に比べて組織内のストレスがほとんどなく、被害が拡大することもありませんでした。
一方、近隣の福祉施設が甚大な被害を受けたため、私どもでは100人ほどで泥かきなどの支援を行いました。加えて、被害が甚大だった岩泉町へは、岩手県災害派遣福祉チーム(福祉版DMAT)に、職員を派遣しました。
岩泉町は東京都より大きな町でありながら、人口は1万人以下と、非常にマンパワーが不足している地域です。そこで、県内の市町村社協がローテーションを組んでサテライト災害ボランティアセンターを立ち上げました。私どもも地元の法人としてお手伝いをさせていただいています。最近は、時間の経過にしたがい、被災地のボランティアに対するニーズが緊急的なものからまったく違ったものへと変化しているのを感じています。
さまざまなことが貴重な経験になると考え、私どもも中長期的に関わっていきたいと思っています。将来、人口減少に伴い、岩泉町のような地域が増えてくると思われます。今後、社会福祉法人が果たすべき役割は、ますます大きなものになっていくのではないかと感じています。