文字サイズ

福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

ICT(Information and Communication Technology) を活用した業務改善とその効果

種別高齢者施設
開催年2017
テーマ職場づくり・専門性向上
ICT
ICT(Information and Communication Technology) を活用した業務改善とその効果

社会福祉法人 堺福祉会

特別養護老人ホーム「ハートピア堺」

介護業務との親和性が高いICT

当法人は、特別養護老人ホームや通所介護などを併設する複合施設です。
ICTとは、日本語で情報伝達技術を指すもので、介護業務との親和性が高いツールです。当法人では通信・伝達・交流といった、人と人とのつながりをよりよくするために活用しています。
初めに、当法人がICTを活用することになった経緯をご説明します。きっかけは、当法人の業務改善の柱である「『プチいら』改善」「ナイスな気づき」「ICTの活用」の3つについて、さらなる充実や改善を図りたいと考えたことにあります。
まず言葉の説明ですが、「プチいら」とは、日常の小さなイライラを表す当法人独自の造語です。これを改善することにより、職員のストレスが軽減され、利用者ともより気持ちよく接することができると考えています。
「ナイスな気づき」とは、マイナスイメージのある「ヒヤリハット」を、プラスイメージに変換する目的でつくった言葉です。業務中に「ナイスな気づき」を記録し、職員間で共有することで利用者の満足度向上につなげたいと考えました。この言葉をつくって以来、特別養護老人ホームだけでも月500件を超える「ナイスな気づき」が報告されるようになりました。
当法人は、「プチいら」の改善に加え、「ナイスな気づき」をより効果的に業務に生かすことを目的に、ICTを活用することにしたのです。
では、職場ではどのような「プチいら」があるのかをご紹介します。特に目立ったのが、「伝達がうまくいかない」「会議の時間が長く、まとまらない」などのコミュニケーションに関する課題です。具体的には、各部署に日誌やカンファレンス記録、会議録、研修資料などを回覧しても、全員が見たかどうか把握できなくなるケースが多いこと、ケアの変更点や会議で決まった内容が伝わっていないことがあるといった内容でした。
一方、「ナイスな気づき」については、平成15年に導入した介護ソフトが、業務の効率化や情報共有の面で効果的に活用されていました。このことから、ICTの活用は職員間のコミュニケーションを円滑にすると確信し、同時に「プチいら」の改善にも有効だと考えたのです。
そこで、コミュニケーションの課題解決と、より密な職員間の連携を目的に、新しいICTのシステムを導入することにしました。まずは、各部署からこの分野に詳しい職員を集め、ICTの活用方法を検討する効率化委員会を設立。「情報の整理」「ペーパーレス化」を目標に掲げ、導入するシステムの検討や、操作方法のマニュアル作成、職員への説明などを行いました。
効率化委員会でさまざまな検討を重ねるなか、協力を得ていたコダックジャパンから「会議議事録閲覧システム」というICTプログラムの提案を受け、導入を決定。紙媒体の資料や会議録をスキャンして取り込むと、施設内であればどのパソコンからでも閲覧・承認が可能になるシステムです。
これにより、文書を簡単に検索できるほか、上司や管理者は、誰がどの資料を確認したかをひと目で把握できるようになりました。また、資料を全てデータ化するため保管が楽になり、議事録を探す時間も大幅に短縮されました。もちろん、複数のパソコンで同時に資料が見られることも、大いに業務の効率化につながっています。
効率化委員会は、誰もが簡単に活用できるよう、全てのパソコンにこのシステムのショートカットキーを作成し、アイコンを分かりやすいものに変更しました。また、既存の議事録を全て専用のフォーマットに落とし込み、システム上で過去の情報を検索できるよう整備を行いました。

メールやタブレットの活用で「プチいら」を改善

ここからは、さらなるICTの活用で「プチいら」の改善や効率化に取り組んだ事例をご紹介します(資料15)。

資料15

まず、社内メールの活用についてです。これまでは、専門職に相談したいことがあっても、所在が分からないことや、口頭での伝達ミスが多く見られました。そこで、伝達内容を確実に残せるメールでのやり取りを徹底しました。メールであれば、会議や研修の資料も添付できます。これにより、情報共有が格段にスムーズになりました。
次に、タブレットの活用です。ショートステイで荷物を管理する際、これまでは入所時に全ての荷物を撮影し、プリントアウトをして退所時に確認する方法を取っていました。しかし、荷物の細かい部分までは確認しづらく、記入やチェックにも時間がかかり、たびたび返却漏れがあったのです。そこで、タブレットで荷物管理ができないかと考え、試験的に1台購入しました。そして導入してみると、タブレットで撮影した荷物の画像を、タブレット内につくった利用者ごとのフォルダに入れて整理することができ、非常に管理が効率的になったのです。画像をプリントアウトする必要がなくなったのでペーパーレス化にもなりました。電子機器に慣れていない職員も利用きるようにと、操作方法を動画で撮影し、タブレットで確認できるようにしました。
当初はショートステイでの荷物の管理のために導入したタブレットですが、次第に利用者との関わりのなかで活用する職員も見られるようになりました。例えば、利用者と一緒に音楽や映像を楽しんだり、Googleマップで利用者の生まれ故郷の画像を見て懐かしんだりしています。さらに、紙媒体の業務マニュアルを全て電子マニュアル化し、タブレットで確認できるようにもしました。これによりマニュアルの更新が簡単になり、OJTの場面でも活用できています(資料16)。

資料16

最後に、会議の「見える化」についてご説明します。議事録を壁から12cmの距離で投影できるプロジェクターを使い、会議と同時進行で閲覧できるようにしました。こうすることで、会議に遅れて参加した職員も、それまでの話の流れを視覚的に把握することができます。ケアの記録やインターネットの情報などが必要であれば、すぐに確認し、共有することも可能です(資料17)。

資料17

こうした取り組みにより、職員間の情報共有や連携が非常にスムーズになりました。業務が効率化されたことで時間に余裕が生まれ、利用者のお話しをゆっくり傾聴したり、一緒に外出したり、レクリエーションをするなどの時間にあてることができています。ICTの活用は、利用者と職員の気持ちの共有に加え、職員同士のコミュニケーションに大きな効果をもたらしたといえます。