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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

特別支援学校の業務経験から活かす 就労継続支援A型事業所の取り組み

就労・宿泊体験を通し、利用者(児)の 自立支援について考える
種別障害者施設
開催年2017
テーマ職場づくり・専門性向上
特別支援学校の業務経験から活かす 就労継続支援A型事業所の取り組み

社会福祉法人 清流苑 就労継続支援A型事業所「やはず園」

「やはず園プロジェクト」とは

当法人が運営する「やはず園」は、2010年10月に、鹿児島県北西部の北薩地域で初めて設立された、就労継続支援A型事業所です。現在、37名の利用者が一般就労を目指して働いています。職員は12名で、そのうち私を含む3名は本部職員です。今回は、当園で「就労・宿泊体験」をした特別支援学校のお子さんたちが、A型事業所で訓練をし、一般就労をスタートさせていく流れについいてご紹介させていただきます。まず、当園で提供する就労内容についてです。老人ホームやホテルでのクリーニング作業が中心で、老人ホームでは、食品加工や食器の洗浄も行っています。また、企業の工場や食堂の清掃、市の委託による公園の清掃、洗車や運搬、出水市の特産品「モロッコいんげん」の収穫など、さまざまな作業に従事しています。なかでも、地域貢献事業として取り組んでいる墓守・家守サービスは、多くのマスコミに紹介されました。これからご説明する就労・宿泊体験に参加された皆さんには、これらの作業の肝になる部分を抜き出して体験していただいています。1つでも多くの作業を体験していただくことで、進路を選択する際の参考にしていただけたらと考えています。それでは、当法人が特別支援学校向けの就労・宿泊体験事業に取り組んだ経緯をご説明します(資料①)。きっかけは、私が特別支援学校で4年間教員をしていたときに経験した2つの出来事にあります。1つは、生徒から「夏休みの過ごし方が分からない」と相談を受けたこと。もう1つは、その学校には寄宿舎がなかったため、実習先で初めて親元を離れて宿泊する生徒が、状況に適応できないケースが多く見られたことです。そこで、学校の長期休暇中に、当園で就労や宿泊を体験していただくプランを計画しました。これを「やはず園プロジェクト」と命名し、2017年の夏には6回目を実施しました。次に、やはず園プロジェクトが掲げている目標をご紹介します(資料②)。特別支援学校の生徒は、3年間で約5~6回、企業や福祉施設に足を運んで現場実習を行います。学校によって初回の現場実習の設定時期は異なりますが、1年生の前期から行うケースはあまり見られません。そこで、やはず園プロジェクトにおいては、1年生のうちから夏休みや冬休みを活用し、社会ではどのような仕事をしているのかを体験していただく機会を設けたいと考えました。また、2泊3日の宿泊を通して見えてくる課題を明らかにし、親元を離れて暮らす足がかりをつくること。さらに、休日を充実したものにするため、どのように余暇を過ごしたらよいかを考える機会を持つことも目標としました。

資料①

資料②

参加者の可能性を広げる支援

では、このプロジェクトで参加者がどのような1日を過ごすのかご紹介します。資料③は1日のスケジュールです。朝は朝礼やあいさつの練習、清掃を行い、9時から作業に入ります。お昼休憩を取った後、13時から午後の作業をし、15時から15分間を終礼とし、1日の振り返りをします。そして洗濯や入浴、夕食を済ませた後、学習会を行います。資料④は、これらの様子を写真でご紹介したものです。これまでに6回開催し、57名が参加しました。参加者の内訳は、高等部の3年生が43%、2年生が40%、1年生が10%、その他が7%です。参加するメリットは、次のような点です。

  • 長期休暇を有効に使うことができる
  • 現場実習のような就労体験ができる
  • 多くの作業を経験して自らの適性が分かる
  • 先輩や職員の話から、就労への意欲が湧く
  • 宿泊体験を通して生活面の課題を発見できる
  • 集団生活を通して、協調性が身に付く

一方、実際に受け入れたことで、参加者自身の課題も見えてきました。特に目立ったのは、あいさつができないこと、そして時間を守れないことです。また、就労の意義を分かっていない参加者も多く見られました。これらは、一般就労に向けて特別支援学校に在籍している間に身に付けておくべきことですので、プロジェクトのなかで重点的に支援しています。具体的には、毎朝「あいさつ練習」の時間を設けることに加え、時間を守ることに関しては、10分前に準備を完了し、5分前には持ち場に移動することを徹底して伝えます。最終的には、職員に促されることなく自ら進んで行動できることが目標です。就労の意義や意味を知っていただくことについては、学習会で夢を持つことの大切さなどを話すなかで考えてもらうようにしています。また、日誌は毎日の振り返りと、就労に向けて何か1つでもストロングポイントをつくることを目的とし、必ず書いていただきます。こうすることで、本人ができることを、さらにできるよう支援を行っています。これらのプロジェクトを実施するうえで、職員は参加者の可能性を広げるため、単純にローテーションで作業を回すのではなく、一人ひとりの興味や関心、意欲に沿った支援体制を構築できるよう心がけています。こうしたプロジェクトを実施した結果、参加者の保護者や学校、実習先の企業から一定の評価をいただくことができました。プロジェクトを経験したうえで当事業所に入所し、その後、ある製造関連企業の実習に臨んだ利用者が、生活態度や仕事ぶりを大変評価され、内定の運びとなっています。その利用者はグループホームも利用しているため、そこを出て居宅介護のサービスを利用しながら、一人暮らしを開始し、本当の自立を目指していくことになります。当法人としての最終目標は、利用者が他人に頼ることなく、自らの力で生計を立て、それを定着することです。特別支援学校と同じように、当事業所が退所した後もサポートをしていくことができたらと考えています。

資料③

資料④