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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

競争相手のいない商品開発で就労継続支援B型事業利用者の工賃財源確保を

種別障害者施設
開催年2018
テーマその他創意工夫
競争相手のいない商品開発で就労継続支援B型事業利用者の工賃財源確保を

社会福祉法人 東京リハビリ協会

東京リハビリ協会の概要

当会は、東京都西多摩郡日の出町において、就労継続支援B型事業をはじめ、生活介護事業、福祉ホームなど9つの事業を運営しています。今回は、当会の就労継続支援B型事業について紹介します。 就労継続支援B型事業の目的は「一般企業での就労が困難な人に働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練を実施すること」と、障害者総合支援法で定められています。福祉サービスのB型事業が商売を行う理由は、利用者に一定の工賃を支給し、地域における自立生活に移行するためです。しかし、全国のB型事業所の平均工賃は約15,000円となっており、障害年金を合わせても地域での自立生活は困難だと思われます。 現在、当会では全国平均の4倍以上の工賃を支給しています。全国では10万円以上の工賃を支給している施設もありますが、残念ながら多くは低工賃であるのが実態です。当会では「障害があっても、同年齢の市民と同等の生活環境の確立を支援すること」を経営方針とし、障害のある人々が自らの力で地域における自立生活を可能にすることを実践しています。 この取り組みを実践するための商売の事例として、当会で行っている2つの事業を具体的に説明します。

競争相手のいない商品開発の2つの事例

1つめは「観賞魚リース事業」です。人間の背丈ほどある水槽に、赤や青、黄色など色とりどりの熱帯魚が泳ぐ「プライベート水族館」を、約26年前に開発しました。これまで約1,750台を販売、約35億円の売り上げになっています。 障害者や高齢者などの施設利用者の多くは、容易に水族館に行くことが難しいのですが、「プライベート水族館」の導入により、施設生活に憩いと潤いが生まれます。また、かわいく美しい生き物を身近にし、餌を与えることで、安心や安定などの精神的効果もあり、心身に変化が生まれるという利点もあります。これは、購入されたお客様にも、障害のある利用者にも、夢のある事業となっています。 水槽の大きさによりますが、5年間のリースは1台月額35,000円前後です。メンテナンスは、基本的に5年間で30回行います。利用者の作業は、主に観賞魚の飼育や水質管理、餌やりです。リース期間中、利用者は自分たちのペースで観賞魚の飼育管理などの作業に従事します(資料①②)。

資料①

資料②

資料③は、現段階では未公表の事業として開発中の「アド水槽」です。これは、水槽の中に企業の広告商品が泳ぎ、魚と企業広告を同時に楽しめる商品です。現在、企業とのタイアップを模索しているところです。

資料③

2つめの事業は、えぞあわびの養殖事業です。これはまだ3年目ですが、えぞあわびを室内で養殖して事業化につなげています。観賞魚リース事業で26年間培った飼育や水産技術のノウハウを活かして開発しました。 現在はまだ研究段階ではありますが、2019年度には「東京産あわび」の誕生を目指して進めております。なお、「東京産あわび」の商品名は、生育期間が長い所を産地として表示できるため、来年度以降に養殖地を原産地とした「東京産あわび」として出荷できると考えています。現在は「お江戸のあわび屋」として、全国のフランス料理店や鉄板焼き店、寿司屋、ホテル、結婚式場などから注文をいただいて販売しています。ミシュランの星付きレストランからもおいしいと好評をいただいています(資料④)。

資料④

あわび事業の利用者の作業は、あわびの飼育、餌やり、水質管理などで、専門スタッフの指導のもとで行います。現在は2万貝が育てられる飼育場に約1万貝を管理しています。水の管理が重要で、タンパク質を除去するプロテインスキマーという装置や、水をろ過するためのろ過槽にゴミがたまりやすいので、定期的に清掃作業をします。餌になる徳島産の鳴門わかめを、あわびが食べやすいサイズにカットするなどの作業も1日繰り返して行っています(資料⑤)。

資料⑤

B型事業利用者の工賃財源確保のために

当会では、これらの事業を成功させるために営業を重視し、専門の担当職員を置いています。毎日の営業日報を基に個々の営業分析をし、毎月、月初に全体の営業会議で売り上げや現状の報告をしています。また、毎週金曜日に幹部も参加する部門会議を行い、課題の整理をしています。担当の専任営業職員から、所長や幹部、役員などを含めて営業体制を一体化しています。営業の手法として、商品を売るための企画コンテストや、DVDやチラシの活用などを行っています。 法律は、B型事業所の利用者に一定の工賃を支給し、自立生活に移行させることを目的としているのですから、そのためには下請けなどに頼らず自主営業を行い、より利益率の高い仕事を目指すことが必要ではないかと考えています。企業では当たり前のことが、多くのB型事業所で行われていないところにも、低工賃の原因があるように思います。 当会では、観賞魚リース事業や、えぞあわびの養殖事業を、競合相手が少なく一定の利益が確保できる事業として選択し、工賃の財源を生み出しています。販売競争に巻き込まれずに、単価が取れる事業を開発するアイデアは非常に大事です。熱意はもちろんのこと、本当に日本一の事業にするとの意志で組織全体がまとまることが必要だと感じています。 今回の発表により、方法論や商売の仕組みが参考になればと思います。現在、利用者の方々に最低賃金を支払い、労働契約を結ぶA型事業への転換も模索していますが、事業所数などの関係上、自治体による指定を受けるのが厳しい状況です。行政に申請を上げても、新設のA型事業は現状では認められにくい状況にありますが、一般企業への就職が難しいのであれば、当会の中で雇用をして自立生活につなげたいと考えています。さまざまな課題はありますが、将来的にはA型事業の立ち上げを目指し、多くの利用者の方々を雇用に結びつけたいと考えています。