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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

ICT活用による業務効率化

インカム・タブレットの導入による魅力ある職場づくり
種別高齢者施設
開催年2018
テーマ介護ロボット・福祉機器
ICT
ICT活用による業務効率化

社会福祉法人 八尾隣保館

特別養護老人ホーム 第二成法苑つむぎ

ICT導入の経緯

当法人は、今年で創立から83年を迎えました。法人全体としては、WebやSNSの活用、実習生の積極的な受け入れ、学生アルバイトの受け入れなどを通し、支持を得ながらブランディングを高めています。福祉の現場は3K(きつい、汚い、給料が安い)といわれることがありますが、私たちはこのイメージを払拭するために「かっこいい介護士」を目指しています。これを実現するための新しい取り組みとして注目したのが、介護技術の向上と介護機器の進化です。 今回は、当法人の施設の一つである特別養護老人ホーム 第二成法苑つむぎ(以下、つむぎ)において、インカムとタブレットを活用し、魅力ある職場づくりに取り組んだ事例について紹介します。

インカム・タブレットの活用

まず、インカムとタブレットを導入するにあたり、つむぎにおける業務でこれらの悩みがありました。 1つめは、職員の所在確認ができないことです。全てが居室対応のため、居室に入ると所在が分からなくなり、職員を探し回ることがありました。 2つめは、チーム力が弱いことです。これはつむぎが新しい施設で、職員もお互いにオープニングスタッフであることが理由の一つです。コミュニケーションが十分に取れていないため仕事を単独で行うことが多く、連携不足になっていました。 3つめは、瞬時の情報共有ができないことです。1つの情報を複数の職員や全ユニットに伝えるのに時間がかかっていました。緊急時なども特定の職員だけが対応している状態でした。 4つめは、利用者への配慮ができていないことです。職員同士の伝達や業務上の会話が利用者の耳に入り、生活の妨げになっていました。これは、プライバシーへの配慮の点からも重要な問題です。 5つめは、新人職員が抱える、仕事への不安です。日常的な緊張やプレッシャーに加え、特に夜勤帯に不安があり、心身の負担が大きくなっていました。 これらの5つの問題点がスタッフのストレスになり、離職につながっていました。そこで、私たちが改善策として導入したのが、インカムとタブレットです。

【インカム】

資料①は、実際にインカム機器を使用している様子です。導入後は、当初から上司が率先して活用したこともあり、思った以上にスムーズに職場に浸透していきました。職員がインカムを使用すればするほど、利便性を実感できる点がよかったと思います。しかし、「耳が痛い」「インカムが重い」などの不満の声もありました。この点については、インカムのレンタル先と連携をしながら、イヤホンの種類を増やすなどし、不満を満足に変えることができました。

資料①

インカムの導入台数は計10台。数が少ないと思える場面もありますが、さまざまなスタッフと施設のどこにいてもつながることができる点は大きなメリットであると感じています。 導入にあたっては、独自の活用方法とルールを決めました。特に、「なぜインカムを導入したのか」についての理由と意義を重点的に説明することにしています。 インカムを導入してから1年後に行ったアンケートでは、20人中19人が「インカムを導入してよかった」と回答しています。 職員からは、次のような声が寄せられました。

  • 大きな声を出して職員を呼ばなくてよい
  • 行事のときに便利
  • インカムで済む用事があり便利
  • 先輩と繋がっているから安心
  • 利用者さんへの迅速な対応ができる
  • 内線の回数が減り、うるさくない など

また、介護士だけでなく看護師や生活相談員からも、業務において効率的かつ効果的であるといった前向きな声が聞かれました。何より、新人職員の仕事に対する不安や緊張を緩和する効果もあったことが収穫でした。 インカムを活用することは、職員同士がつながることができ、不安解消にもなることが分かりました。このことが安心材料となり、職員の定着にもつながると思います。

【タブレット】

つむぎを開設した当初、タブレットは特に記録時間の効率化や、それに伴う業務の省略化を行うための機器としかとらえていませんでした。 しかし、タブレットのカメラ機能を使うと、理学療法士からの指示を動画で見ることができるなど、看護師であれば、利用者の皮膚状態などを撮影して情報を共有し、統一したケアができたりとさまざまな利点があることが分かりました。 また、ショートステイでは荷物チェックアプリが便利です。これまで、ショートステイの利用者1人あたりに30分を要していた荷物チェックが、このアプリで管理することで、1人あたり約10分に短縮されました。空いた時間を個別の機能訓練などに費やすこともでき、加算による収益が大幅に増えるのではないかと考えています。 さらに、このタブレットの大きな魅力の一つが、ゲームアプリやYouTubeを活用できることです。職員の経験年数にかかわらず、タブレットで動画を見ながらレクリエーションを行うことで、均等な内容を提供することができます。 また、資料②のように、利用者と職員の年代が離れていても、YouTubeを利用することで簡単に音楽を検索して聴くことができます。タブレットを使用することは、業務の短縮化になるだけでなく、利用者とつながる時間を持つことができました。今や、タブレットは大切なコミュニケーションツールになっています。

資料②

最後に、今後の課題と展望について説明します。 1つめは、気づきのある職員を育てることです。例えば現場では、インカムで他の職員を呼んでいても、自分のことではないからと聞き流していたり、インカムを使用していない職員がいても気づかなかったりすることがありました。これを介護の場面に置き換えて考えると、ヒヤリハットな場面があったり、その反対に、「ホッとする」ことにも気づかないのではないかと思います。インカムを使用することで、少しでも気づきを広げ、声をかけ合い、行動に移せる職員を育てていけたらと思っています。 2つめの課題と展望は、さらなるタブレットの可能性を探ることです。現在、LINE WORKSという、業務の効率化や共有化を図るアプリを使用しています。これは、災害時でも職員同士の連絡手段になると考えています。 さらに、これからは利用者の家族との連絡手段やコミュニケーションツールとしても大いに活用できると思います。日々の利用者の様子を写真や動画で送ったり、必要物品などの簡単な連絡をタブレットで行ったりすることで、お互いがより身近に家族を感じられるのではないでしょうか。介護の世界におけるタブレットの活用は、まだまだ無限の可能性を秘めていると思います。 介護は、身体機能維持や環境整備をどうするか、思い出の場所に行くことや、最後まで口から食べるにはどうしたらいいかなど、考察とクリエイトであふれています。時間や人手を理由に諦めず、ICTを活用することでさまざまなことに積極的に取り組むことが大切だと考えています。これからも、介護の3Kを「感謝、感動、感激」に変え、常に前向きに利用者と向き合っていきます。