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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

すべては「人を大切にすること」からはじまる

~「人を大切にする」経営の九つのキーワード~
種別障害者施設
開催年2019
テーマ職場づくり・専門性向上
すべては「人を大切にすること」からはじまる

社会福祉法人 雲南ひまわり福祉会

2011年から経営方針を刷新

当法人の設立は2000年7月、障害者福祉施設として事業を開始したのが2001年4月です。2011年に役員が退任することになり、組織体制の強化と職場環境を図るため新たに常務理事制度が導入されて、私が外部より就任しました。このときから「人を大切にする」経営の実践を職員と共にめざしてきました。現在は障害福祉サービス事業として7事業、10種のサービスを提供しています。
このような取り組みが次第によい結果を伴うようになり、2019年3月には「第9回日本でいちばん大切にしたい会社大賞」(人を大切にする経営学会主催)において、実行委員会特別賞を受賞させていただきました。実行委員会特別賞は、社会福祉法人やNPO団体に授与される賞で、全国から5団体が選ばれます。その中に入ることができたのは、大変名誉なことです。
主な受賞理由は2つあり、1つは「7年8か月、正規職員離職者ゼロ」(応募時点)で、これは現在も継続中です。2つめは「社会福祉法人として、傾注に値するES(Employee Satisfaction/職員満足度)重視経営とPDCAサイクル経営の実践」です。外部から常務理事に就いた私は、職員の目には部外者的な存在に映っていたかもしれませんし、私自身、就任当初は戸惑いや不安もありましたが、志の高い職員たちの意欲を肌で感じ、後押しされたように思います。一緒に一歩ずつ前に進んできたことが、このようなかたちで評価されて大変うれしく思います。

人を大切にする経営の具体策とは

「人を大切にする」経営の九つのキーワード

1.基本理念の再認識から経営戦略のプロセス
2.改革から改善に向けたマネジメントの推進
3.業務プロセスに目を向け、改善のポイントはリセットする勇気から
4.サービスプロフィットチェーンの仕組みと効果
5.人事労務管理はスタッフ目線で
6.スタッフの定着は、しっかり向き合うことから
7.風通しのいい職場環境を目指して(チェックリスト⇔実践)
8.人を大切にすること
9.更なるチャレンジ…「さぁ!みんなでどうやってやろう」

当法人が「人を大切にする」経営をめざすうえで実践してきたことを、九つのキーワードに基づいて説明していきます。
最初に手掛けたのが、キーワード1となる法人の運営指針です。設立当時から掲げていた法人の基本理念「地域で共に暮らす喜びをめざし」を再認 識したうえで、職員で構成する策定委員会を設置し、中・長期経営計画の策定を約1年かけて行いました。また、事業計画と予算の連動化を、少しずつハードルを上げながら、5か年計画で事業所ごとに作成し、サービスの質の向上につながる収入の増大と支出の縮減を図るために、できることから実践していきました。これによって事業所ごとの主体性、スタッフの経営参画意識の高揚を図るとともに、事業所間の連携や協力体制が生まれてきました。
キーワード2の「改革」とは、組織体制の強化の確立、ぶれない経営方針に向けての仕組みづくり、明るい職場環境づくりの施策展開などです。新しい経営に対する流れが生まれたら、次はスムーズに運ぶよう緩やかにあらためていく「改善」です。トップダウン方式ではなく、ボトムアップ方式によって職場のニーズやアイデアを汲み上げること、職員としっかり向き合いながらPDCAサイクルを活用した継続的な改善を繰り返すことを実践してきました。
キーワード3の「リセットする勇気」とは、めざすべき方向の明確化と改善に向けて、既成概念にとらわれず、積極的に提案して前に進んでいく姿勢を表しています。改善に向けた意見の反映をするためには、職場内の意思の疎通、情報の共有が欠かせない要素です。現場の声をしっかりと受けとめ、フィードバックを繰り返しながら、PDCAサイクル経営の実践を行い、継続的な改善につなげています。
キーワード4の「サービスプロフィットチェーン」は、(資料①)のような「職員満足度(ES)の向上 → 職員のロイヤルティ → 職員の生産性向上→ サービスの質の向上 → 顧客満足度(CS)の向上 → 顧客のロイヤルティ → 業績の向上、法人の成長 → 職員向けサービスの向上 → 職員満足度 (ES)の向上」というサイクルの流れを作り出すことで、CS満足度とES満足度が密接に関わり、サービスの質の向上、スタッフの定着、スキルアップの向上という相乗効果が生まれています。職員の現場力が着実に向上し、職場全体のレベルが上がってきていると実感しています。

資料①

職員とともに更なる挑戦へ

キーワード5にある「人事労務管理」は福祉経営の要ともいわれますが、当法人では①人事考課制度の適正な運用、②研修を活用した職員の育成、③職員の処遇体系の見直しと適正化に重点をおいています。年3回の人事考課だけでなく、年度末に自己申告書を提出してもらい、個人面談を行っています。研修はプロジェクト委員会を構成し、外部研修への参加だけでなく、内部研修も独自で継続して行っています。また、2017年には1年かけて職員の給与体系の見直しを行い、非正規職員の給与についても、毎年上がっていくような体系を取り入れました。職員の意向をどう汲み上げていくか、まずは職員の立場に立って問題と向き合うため、最初に100項目程度の意向調査を行いました。繰り返し検討しては説明会を開き、反論や意見を汲みながらスタッフ目線での人事労務管理の実践に努めています。
さらに先を見据えた「定着」支援がキーワード6になります。地域に選ばれる法人としての競争力を身につけていくためには、職員の「満足度」+「幸福度」を求めていくような施策の対応と、働き方改革に対応した働きやすい職場づくりが必要だと考えています。職員に対する評価、育成・活用、処遇に対してしっかり向き合うとともに、社会福祉法人としての多機能化などの自律的な経営の確立をめざしています。
キーワード7の「風通しのいい職場環境」をめざすにあたり、①職場のニーズや要望に応えているか、②現場の創意工夫が活かされている組織か、③すべての職員による参画が保たれているか、④何でも言える職場の雰囲気か、⑤必要なことが上下隔たりなく伝わっているか、というチェックリストを掲げて、職場環境を良くする手法などの実践を行っています。
「自然」「地域」「人」に共通する良さは「温もりと共存」です。この良さは決して普遍的なものではなく、日頃から守り、続け、直すことによって、形を変えて育まれていくものです。法人の宝物は、利用者と職員です。朝が訪れ、今日も皆が笑顔を輝かせて施設にやってくる姿に、キーワード8の「人を大切にすること」の重要性を再認識しています。
そして、最後のキーワード9の「更なるチャレンジ」は、これまで実施してきた第1期の中・長期計画を検証して、第2期(2018年?2022年)の計画をまとめ、「さぁ!みんなでどうやってやろう」を合言葉にして取り組んでいます。これまでのスタンスを変えることなく、新たな事業環境に適合した地域福祉の展開に向けて、これからも皆で手を携えて、さらなるチャレンジをしていきたいと思います。