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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

農福連携を取り入れた工賃向上に向けての取り組み

~地域における農福連携の可能性~
種別障害者施設
開催年2019
テーマその他創意工夫
農福連携を取り入れた工賃向上に向けての取り組み

社会福祉法人ラーフ 障害福祉サービス事業所やまもも

作業工賃を上げていくためには

当事業所は、平成4年に小規模作業所として運営を開始し、平成21年にNPO法人ラーフ傘下となって地域活動支援センターIII型に体系移行しました。平成24年に就労継続支援B型事業を開始し、平成27年に社会福祉法人運営に変更して現在に至ります。利用者は現在29名で、知的障害者が21名と大半を占めています。
香川県観音寺市は、もともと小規模作業所の割合が多い地域で、地域活動支援センターIII型に移行後、就労継続支援B型の事業に移行するというケースが多くあります。そのような性格上、当施設でも焼き菓子の生産、「さをり織り」などの手芸品の制作、軽作業などの作業提携を行っていました。利用者への工賃は、地域活動支援センターIII型のときは1人当たり月平均3,000円程度と微々たるもので、就労継続支援B型事業に移行後、職員を増やして他の焼き菓子の販売・製造も増やしていったのですが、それでも月平均1万円程度にしかならないという状況でした。
そこで、収益を上げていくために、もっと地域性を活かすことはできないか、自家菜園を活かすことはできないかと考え始めました。その中で、コーディネーターと共に、地元産のいりこを前面に打ち出した「いりこさぶれー」や、小エビを練り込んだちくわを使用した総菜パン「えびちくパン」を開発。この商品の販売拡充を進めるとともに、焼き菓子のセット販売(資料①)を始めたことで、顧客の拡大と収入増を少しずつ実感できるようになりました。
しかし、自家菜園を活かした事業や活動についてはなかなか展開できずにおり、農作業の拡充につながればと、平成26年に香川県社会就労センター協議会の農福連携共同受注に参加することにしました。

資料①

農福連携の収益とやりがいに満足

農福連携共同受注に参加し、初めて依頼された委託作業は、玉ねぎの定植作業でした。しかし、畝に穴を開け、苗の根元を3cmほど埋めて土を被せるという定植作業に加え、その前後には苗を運んだり小分けしたり、確認する作業も含まれるので、利用者1人で作業を完遂するのは難しいだろうと判断し、断念しました。それでも数か月後には、玉ねぎの収穫作業の依頼がありました。これについては、私たちの家庭菜園でも玉ねぎの収穫を経験しているため、受注をすることができました。玉ねぎを引き抜き、並べ、葉を切り落とすという一連の作業を順調にこなせたことで、分担の仕方などを工夫することにより作業内容の幅が広がるのではないかと期待が持てるようになりました。
玉ねぎの収穫が終わった畑では、レタス栽培がはじまるのですが、レタスの定植作業についても依頼がありました。初めての作業でしたが、職員が事前に説明と実習を受けておくことで、利用者の作業をリードできると判断して受注することにしました。それ以降は、にんにくや金時人参の収穫作業など、季節ごとの農作業に取り組みながら1年近くが過ぎたころ、再び玉ねぎの定植作業の依頼があったので、今度は受注することにしました。
すると、私たちが頻繁に畑で委託作業に取り組 む姿を見た農家やJA、地域の方々から、みかんの袋詰めや栗の皮むき、清掃作業、花壇の手入れ、家庭の除草作業など、次々と新たな依頼が入るようになったのです。現在、利用者の適性を見ながら可能な範囲で取り組んでいます(資料②)。
農福連携共同受注に参加して以降、工賃は着々と増えて、平成29年度には月平均20,000円を超えました。農家の方からは「人手不足が深刻な中、障害のある人が作業に携わることで農作物の生産が安定し、助かる」といった評価をいただき、利用者も職員もやりがいを感じています。

資料②

共同受注窓口を活かした農福連携

発表:NPO法人 香川県社会就労センター協議会

共同受注窓口の役割とは

NPO法人香川県社会就労センター協議会としての、共同受注窓口を活かした農福連携の取り組みについて紹介します。
私たちが取り組む農福連携のポイントは主に3つあります。1つは、共同受注窓口の仕組みです。香川県社会就労センター協議会は現在90の施設が入会しており、そのうち25施設が農福連携に参加しています。どのようにコーディネーター機能が働いているかというと、たとえば「5月3日に10a(アール)の収穫をしてほしい」と、にんにく農家から依頼があったとします。すると、資料③のようなかたちでコーディネーターが施設へ連絡し、Aの施設では1日5aできる、Bの施設では3aできる、といった形で、複数の施設を合わせて10a分を取り付けます。

資料③

やむを得ず行けなくなった利用者が出た場合にも、代わりに参加できる施設を探すなどの対応をしています。この共同受注による平成30年度全体売り上げは7,600万円に上り、農福連携は1,178万円で全体の15%程度を占めます。初年度(23年度)の売り上げ約250万円から、翌年には700万円を超え、27年度には1,200万円に近い数字まで伸びました。以降は1,200万円弱をキープし続けていますが、これは参加施設の数が見合わず、供給しきれていない実態があるからです。とくに収穫作業は短期間に依頼が集中するため、地域によっては農家の方にはくじ引きで決めさせていただいている状況です。
ポイントの2つめは、「できる作業」をする、さらに「できる作業」を増やしていくことができる点です。たとえば、にんにくの作業は8月からの畝づくり、土壌づくり、種子割を経て、10月に定植作業、12月から3月にかけての肥料づくり、4月から6月にかけての収穫、という流れで年間を通して作業があります。その中で、利用者ができる収穫作業、あるいは定植作業の日程が決まったところで、施設側に依頼の連絡をします。農福連携への参加施設を増やすことが課題となっているので、農業経験のない職員の不安をカバーできるよう、今年度からジョブコーチの派遣を導入しました。新しく取り組む施設にジョブコーチが行き、一緒に作業をしながら指導していきます。農業経験に乏しい職員も利用者も、実績を積んでいくことでできる作業が広がり、作業機会が増えることにもつながります。
ポイントの3つめは、作業工賃が時給ではなく出来高払いで計算されるため、人件費が効率的であるという農家側の利点です。たとえば、にんにくの収穫作業の場合、担当面積1a当たり1,900円、収穫量1キャリー当たり100円、交通費が施設から畑までの距離1km当たり10円で計算され、農家から共同受注窓口へ支払われます。その売り上げの10%を共同受注窓口が受け取り、残り90%が各施設に支払われます。さらに、施設外就労のため、利用者1人が1日現場で働くことにより、1人当たり1,000円が給付加算されます。
農家の方にも利用者にも喜んでいただける農福連携ですが、まだまだ依頼の数に応えきれていません。地域の農福連携がさらに広がるように、共同受注窓口はこれからも農家、施設、自治体それぞれの歯車の1つとなって取り組んでいこうと考えています。