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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

ノーリフトケア

~リフト等の介護機器活用と効果~
種別障害者施設
開催年2019
テーマ介護ロボット・福祉機器
ロボット介護機器
ノーリフトケア

社会福祉法人すぎのこ村
障害者支援施設 ひばり〜ヒルズ

ひばり〜ヒルズの概要

社会福祉法人すぎのこ村は、「やさしさあふれるまちづくり その人にとってどうなのか?」を法人理念に掲げ、常に相手の身になって考える姿勢を大事にしています。運営している障害者支援施設「ひばり〜ヒルズ」の利用者は、生活介護60名、施設入所支援50名、短期入所事業2名と、日中一時支援を数名受け入れており、現在は多少増えている状況です。職員数は56名で、同性介護を行っていることもあり、常勤職員の男性18名と女性23名に、非常勤職員の女性15名が在籍しています。
現在、当施設では、抱えない介護「ノーリフトケア」を行っています。ノーリフトケアというと、職員の腰への負担を軽減するために、リフト等を使って利用者を楽に抱えるような、職員側に配慮した介護ケアと捉えられがちです。しかし、ノーリフトケアは、介護する側・される側、双方の健康的な生活を保障するケアの実践を意味しています。つまり、安心・安全な介護、抱え上げない・持ち上げない・引きずらない・引っ張らない介護をすることで、利用者も職員も守っていこうというものです。
また、私たちは介護職員のことを「スタッフ」ではなく「サポーター」と呼んでいます。スポーツ選手やチームを応援するように、障害のある人たちを応援していこうとの思いを込めて、このように呼ぶことにしています。
当施設の開所は平成7年ですが、最初からノーリフトケアが徹底されていたわけではありません。開所して間もないころは、手動のスタンディングマシンを導入していましたが、利用者の身体を引っ張り上げた状態で固定するためのロックが突然外れて身体がバタンと落ちたり、車輪が小さいため少しの段差でも引っかかりやすく、バランスを崩して転倒させたりと、利用者にケガを負わせてしまうようなことがありました。そのため、当初はサポーターの多くが、ノーリフトケアに対してあまり期待してはいませんでした。

ノーリフトプロジェクト始動

以前、研修でヨーロッパの介護施設を訪れた施設長が、現地で目にしたノーリフトケアを当施設でも実践しようと発起し、平成22年に最新の電動スタンディングマシンを2台購入しました。ところが、その2台はまったく使われることなく倉庫に置かれる羽目になったのです。その理由をサポーターに尋ねると「大がかりな機器は時間がかかる」「温かみがない」「介護サポーターは頑張るのが当たり前」「機械の使い方が難しそう」「今までの経験・資格・知識があるので間に合っている」「慣れている方法から違う方法になるのはイヤだ」「現状で負担を感じていない」などの意見が集まりました。
そこで、平成24年4月、7人のメンバーを招集し「身体的負担の軽減、安全性の向上、60歳・力が弱くても働ける職場」づくりをめざすノーリフトプロジェクトチームを発足させました。日本におけるノーリフトケアの第一人者・保田淳子先生が代表理事を務める日本ノーリフト協会のコンサルティングも受けました。保田先生をアドバイザーに迎えた研修会では、電動スタンディングマシンや電動床走行式リフトを、介護する側・される側の両方で体験し、「これはいいね」という声を聞きながら成功体験を少しずつ積み上げていきました。そして、定期的にメンバーを交代したり、習得できた人が他のサポーターに伝えたりしながら、賛同者を増やしていきました。地域にも多くの賛同者が増えるようにと、近隣の施設にも声をかけて参加者を募り、合同研修会も行いました(資料①)。

資料①

しだいに、介護現場での活用につながると、「身体的負担が減った」「マンツーマンで対応が可能になり、手を借りなくて済む分、周りに気を使わなくて良くなった」「リフトがゆっくり動くので安心」「最初は変な感じだったけれど慣れた」との感想が増え、ノーリフトケアの良さがサポーターの間で実感され始めました。2〜3日間かけて実施する研修会を、年間6〜7回行ったことで、平成25年度には施設利用者全員のリフト移乗が完全に定着しました。以降、リフト以外にも多方面で見直しを図っていき、サポーター全員がスライディングシートを携帯したり、記録用タブレットを活用したりするほか、天井走行式リフトの設置、トイレや浴室のレイアウト改修、トロリーバスの導入、生体センサーや体圧センサーの導入なども進めました。資金面では、介護労働者設備などモデル奨励金、職場定着助成金、IT助成金、自動車事故対策費補助金など、各種助成金を活用しています。

成果の振り返りと今後の課題

ノーリフトケアが浸透し、一番大きな変化として実感できたことが「利用者のケガの減少」です。資料②のグラフに示した数値は、主にベッドや車いす移乗時の転倒による、ずり落ち・打撲・擦り傷などのアクシデントの回数です。

資料②

胃ろうチューブや膀胱ろうのチューブが引っ掛かって抜けるなどの大きなアクシデントも含まれます。こうした移動サポートにおけるアクシデントが、電動床走行式リフトを導入した平成24年以降は激減しました。
利用者に対する効果としては、リフトを使うことでトイレでの排泄が可能になりました。ほとんど寝たきりで車いすを漕ぐことができない利用者でも、資料③のような姿勢で、

資料③

トイレに移乗することで排泄が可能になっています。多くの利用者がトイレで排泄できており、常時オムツで過ごす方は減っています。経理担当者が試算したところ、年間25万円もオムツ代が安くなったということです。また、トイレの移乗はなるべく同性介護に努めてきましたが、リフトを使うことでこれが徹底されています。
このようなリフトでの移乗は、まるでブランコにでも乗っているような感じで利用者がとてもリラックスできます。これを人の力で抱えようとすると、利用者自身も身体に余計な力が入ってしまい、そのままベッドに寝かせることで身体の拘縮にもつながるのですが、そのような症状も緩和されています。
介護する側・される側にとってさまざまな面で効果を発揮しているノーリフトケアですが、ベテランのサポーターから「利用者との会話が増え、距離が縮まった」という声もありました。「リフトがあって当たり前」の環境しか知らないサポーターでは気づくことができない、貴重な意見です。ノーリフトケアが浸透したからといって、自分たちの役割が終わったわけではありません。今後も、利用者に合ったスライディングシートの選択、機能的な導線の確保、設備の充実、サポーターのスキルアップ、コミュニケーションスキルの向上などが求められ続けます。利用者も職員も大切にするノーリフトポリシーの理解を深めながら、自分たちの施設だけではノウハウには限界があるため、事業所、地域、企業との連携も積極的に行っていくことが大切だと思っています。