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福祉施設の実践事例

実践事例 詳細

災害支援を行う意義

~社会福祉法人 南山城学園の実践~
種別障害者施設
開催年2019
テーマ災害時の危機管理・BCP、復興
災害支援を行う意義

社会福祉法人 南山城学園

災害時に備えて何ができるか

当法人は、京都市、城陽市、宇治市を中心に、隣県の大阪府島本町を含めて30余りの事業所を展開しています。京都府では2013年3月に、災害時の一般避難所の二次被害防止を目的として「京都DWAT」が設立されました(DWATとは「Disaster Welfare Assistance Team」の略で、災害派遣福祉チームを示す)。このチームは、京都府内にある事業所の福祉専門職で構成され、医療関係6団体、福祉関係14団体、行政が連携して活動しています。現在は府内に12チームが編成され、約140名がチーム員として登録しています。当法人からも、介護福祉士、管理栄養士、作業療法士の計5名が登録し、京都府の要請により職員を派遣しています。また、当法人は福祉避難所を整備しており、避難所を活用した交流事業や、地元自治体と合同での総合防災訓練、他法人のDWATチームとの連携事業を企画するなど、災害時に備えた啓発事業を積極的に行っています(資料①②)。そのような態勢もあり、京都府から熊本県や岡山県の被災地支援の派遣要請を受けた際は、第一陣で職員を派遣することができました。

資料①

資料②

避難所での高齢者支援

約3年前に京都DWATのチーム員として登録した加藤です。2018年の西日本豪雨で被災した岡山県への派遣活動では、7月20日?8月13日の期間を4泊5日のサイクルで計6班が編成され、私は第1班として参加しました。派遣場所は倉敷市真備町にある一般避難所の岡田小学校で、私が現地入りした7月20日時点で373名の方が避難生活をしていました。京都DWATの活動内容は、岡山DWATの後方支援と、避難生活を送られている方々の生活改善支援です。具体的には、排泄や服薬ができているかの確認と、35度を上回る猛暑日が続いていたので、食中毒や熱中症などを起こさないように声掛けをしながらの巡回などです。岡田小学校では、校舎北館、南館、体育館以外に、運動場で車中泊をする方、校舎から離れた歴史館に避難している方もいました。
歴史館にはトイレがなく、「ラップポン」というポータブルトイレを設置していて、私はこのトイレの点検、掃除、排泄物の回収処理を担当しました。歴史館に避難していた方の中には、足腰が悪いうえに、自宅の1階が浸水したことで気持ちが滅入り、動くのがおっくうだと話す70代の女性Aさんがいました。足には浮腫が出て、パンパンに腫れ上がり、医療保健福祉チーム内での共有事項によると、5分前の記憶がないなど、認知症の症状もあるとのことでした。歴史館は食事の配給所まで距離があり、校舎からの放送も聞こえにくいなど、避難所内でも生活環境は良くありませんでした。Aさんは食事の配給がいつなのかもわからず、受け取りに行くこともできずにいたので、私が代わりに食事を配給所で受け取り、Aさんに届けていました。避難生活がいつまで続くかわからない中、Aさんのように人の助けが必要な方はどうしていくべきなのかを考えさせられました。この件について、活動期間内に解決することはできませんでしたが、後のチームにしっかり引き継ぎをしました。

「要配慮者」以外の支援も必要

避難所生活では、子どもたちが時間を持て余す姿が目につきました。体育館内では3DSのゲームをしている子が多く、ときには体育館内を走り回るなど、周囲の迷惑になっていたかもしれません。その中の1人だった10代のB君が、京都と岡山のDWATメンバーで運営していた「なんでも相談窓口」(資料③)に座っている私の所に来て、夏休みの宿題を始めました。

資料③

それ以来、B君との距離が縮まり、私が避難所周辺の清掃活動をしていると、「一緒にやる」と言って避難所周辺のゴミ拾いに参加してくれました。翌日からは「何時から掃除するの?」と尋ね、定期的に参加するようになりました。そのほか、子どもたちとは中庭の一角でサッカーやバレーボール、ドッジボールなどをして一緒に汗を流すこともありました。
子どもたちと接していくうちに、体育館に勉強机の必要性を感じるようになりました。もちろん校舎には机がたくさんあったのですが、体育館にはそのようなスペースがなかったので、段ボールなどで簡易的に作ってあげられないものかと考えました。個人の判断で勝手な行動はできませんので、班長に相談したうえで、学習スペースの設置に取り掛かりました。
5日間の活動を通して、毎朝、全体ミーティングできめ細やかな情報共有がなされていたことから、避難者のサポートをするうえでいかに「連携」が大事であるかを認識しました。一方で、早い段階で課題に気づきながらも、速やかに解決できず、やるせない気持ちもありました。しかし、岡山DWATの方からは「京都から来てくれてありがとう」と労いの言葉をいただきました。
岡山派遣から戻り、もっとも考えさせられたことは「要配慮者」についてです。一般的に要配慮者とされる定義は、防災、災害対策の分野において、高齢者、障害者、妊婦、乳幼児、外国人など、支援を要する人々ですが、実際に私が活動を通じて感じたのは、被災地の住民全員が等しく支援の対象者ではないかということです。また、罹災証明を受けている方と受けていない方、あるいは避難所生活者と自宅避難者など、情報や物資や補償などの違いから、住民の間に格差が生じているとの声も聞こえてきます。
今回、私は支援する側として携わりましたが、いつ何時、支援を受ける側に回るかもわかりません。日々、日常業務に追われがちですが、災害対策の分野においても、優先度の高い課題として取り組んでいきたいと強く思います。

地域共生社会の担い手として

派遣先で経験した地域活動のノウハウや視点は、今後必ず活かされます。職員全体の資質向上にもつながるため、京都DWATに登録している5名のうち、派遣活動実績のある3名は管理職を務めています。災害時に備えるため、今、自分たちの地域でどのようなことをしていけばよいのかを、若い世代の管理職から発信することで、法人内だけでなく地域の連携にも広がっていきます。もちろん職員が潤沢にいるわけではないので、法人内でも日頃からの支え合いが必要です。
社会福祉法人が、地域の中でどれだけ役に立つのか、地域の中でどれだけ存在意義があるのかを問われていることもあり、事業計画などでも積極的に地域活動を組み込んでいます。地道に一歩一歩進むことで、地域の方から着実に信用を得られるようになってきています。こうした活動を通して、今後も地域共生社会の担い手としての社会福祉法人の意義を、しっかりと見つめていきたいと考えています。