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01.スウェーデンにおける新型コロナウイルス感染症への対応

世界の福祉現場のいま

新型コロナウイルスの感染防止対策は世界各国でさまざまなかたちで行われています。本会では、2018年に開催した国際シンポジウム「仕事と育児・介護の両立支援~その現状と対策~」でスピーカーとしてスウェーデンから招聘したアニタ・ニーベルグ氏より、同国の介護現場における新型コロナウイルスの影響について寄稿いただきました。

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スウェーデンが行った感染拡大防止対策

 2020年2月1日、スウェーデン政府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を「社会に危険をもたらす疾病」に指定し、独自の感染症対策に乗り出しました(Prime Minister’s Office 6 April 2020)。

 政府がめざしたのは感染拡大のペースを遅らせること、すなわち大勢の国民が同時に感染しないように「流行曲線を平らにすること」でした。最大限に成果を上げるためには、適切な対策を適切な時期に講ずることが重要であり、その内容は社会と公衆衛生全般に与える影響を十分に考慮したものでなければなりません。また、収束までに時間がかかる可能性があるなか、施策を機能させるためには国民の理解と納得が不可欠です。

 そのためスウェーデン政府は、ロックダウン後に徐々に制限を解除するのではなく、段階的に規制を強化していくという方法を選びました。

スウェーデンで感染が拡大し始めたとき、政府と公衆衛生庁は他の国々ほど厳しい規制を敷きませんでした。就学前教育施設と小学校は閉鎖されず、レストラン、カフェ、美容院、商店も営業を認められました。こうしたスウェーデンの対応は世界中の注目を集め、思いがけない方面から支持を受ける一方で、多くの批判も浴びました。

独自の戦略が正しかったのかどうかはいずれ徹底した検証がなされるとして、現状では人口100万人当たりの死亡率は、ベルギー、英国、イタリア、スペインなどに比べて低いものの、近隣のデンマーク、ノルウェー、フィンランドに比べると著しく高くなっています。

 スウェーデン政府は当初から公衆衛生庁の判断を重んじてきました。政府の対策は同庁の提言に沿ったものであり、議会もそれを支持しています。提言の主な内容は指針や助言で、「少しでも症状がある時は自宅で療養する」「他人と社会的距離を取る」「衛生対策に努める」「可能なら在宅勤務を行う」「不要な国内旅行を控える」「70歳以上の高齢者は他人との緊密な接触を避ける」など、他の国々とほぼ同じ内容です(Krisinformation 2020)。

 いずれもあくまで提言ですが、規制も実施されています。規制の内容は後日変更されたものもあり、今後も変更される可能性があります。例えば、当初政府は500人以上の集会を禁じていましたが、後に50人以上に変更されました。高校と大学は閉鎖され、レストランやカフェは席と席の間隔をあけた場合に限って営業が認められ、現在はこうした規制が守られているかどうかを確認するための巡視も行われています。

 現在、スウェーデン国内の感染者数は減少しており、あらゆるモニタリングシステムの結果を見ても、検査数は高いレベルを維持しているにもかかわらず、感染者数は減少を続けています。7月は新規集中治療室の患者数がゼロだった日が2日ありましたが、これは3月中旬以降で初めてのことです。死者数もこのところ減少傾向にあります。

高齢者施設の現状とサービス形態

 高齢者向け施設が感染拡大の場のひとつであることに政治家、保健当局、メディアが気づくまでには時間がかかりました。スウェーデンでは2020年3月8日までに新型コロナ関連の記事が7万5000本以上掲載されましたが(Szebehely et al. 2020)、高齢者施設に関する記事は1パーセント足らずでした。ところが、死者の多くが施設の入居者だったことから、高齢者施設での感染対策は最大の課題になりました。死亡した感染者の90パーセントは70歳以上の高齢者でした。また、女性よりも男性の方が多く亡くなっていました。スウェーデンでは感染拡大の初期から高齢者施設への訪問が禁じられ、高齢の親や祖父母に会いに行くことも控えるよう要請されていたので、感染経路は不明で、現在調査が進められているところです。

 高齢者の多くは自立していますが、パートナーや親族、施設の職員などの支援が必要な高齢者もいます。そうした高齢者は自宅でも高齢者向けの「特別住宅(special housing)」でも公的な介護サービスを受けることができます。介護士や看護助手はスウェーデンでは一般的な職業であり(Statistics Sweden 2020a)、その担い手の多くは女性で、主に外国人女性です。

 高齢者介護は地方税と政府の補助金でまかなわれており、利用者の自己負担は費用の4パーセント程度です(Sweden 2020)。利用者は自宅と特別住宅のどちらでサービスを受けるか、また公営事業者と民間事業者のどちらを利用するかを選ぶことができます。いずれを選択した場合でも、地方自治体が運営する施設と同一の規則および費用が適用されることが保証されており、介護サービスに関する責任は常に地方自治体が負います。

 2019年に高齢者が利用したサービスで最も多かったのは、セキュリティアラーム、配食サービス、ホームヘルプサービス、施設サービスでした(Socialstyrelsen 2020)。このうち、ホームヘルプサービスと施設サービスについてみてみると、65歳以上の高齢者のうち、10パーセントの女性と6パーセントの男性がホームヘルプサービスを利用しており、5パーセントの女性と3パーセントの男性が施設で暮らしています。女性の方がホームヘルプサービスと施設の利用率が高いのは、男性よりも長寿であること、そして高齢の男性は年下の妻に自宅で介護してもらえる場合が多いことが理由です。

高齢者施設の問題点~職員の労働環境に起因するもの~

高齢者施設の問題点については議論が続いています。なぜ新型コロナウイルスの感染が施設で拡大し、多くの感染者が出たのか、といった点については、集中的な議論が行われており、今後多くの研究が進められるでしょう。すでにさまざまな要因が指摘され、新たな問題点も明らかになってきていますが、全体像が判明するまでには時間がかかる見通しです。

 そうしたなか、多くの人々が指摘しているのが、高齢者施設で働く職員の労働環境がその原因の一部であるのではないかという可能性です。パンデミック発生以前から、高齢者の在宅介護または施設での介護に携わる介護従事者の病気休暇取得率は、他の職業に比べて多いことがわかっていました(Socialstyrelsen 2020)。職員が病欠すると、臨時職員や代理スタッフが代わりを務めます。しかし、そうなると職員によるサービスの「連続性」が失われ、介護の質が損なわれます。連続性とは、可能な限り同じ職員が高齢者の介護を行うという意味で、在宅介護における連続性は、14日間に一人の高齢者の介護を行ったスタッフの数によって測られますが、この方法で測定すると、連続性は低下を続けていることがわかります。

 施設職員の多くが有期雇用労働者であることも、介護の連続性が損なわれる理由の一つです。ストックホルムはスウェーデンで最も新型コロナウイルス感染者が多い都市ですが、スウェーデンラジオ協会によると、ストックホルムにある公営高齢者施設の職員の約40パーセントが時給制の有期雇用労働者です(Kommunal 2020)。

疾病手当の適用柔軟化と労働形態別の課題

准看護師や介護士など介護関係の職に就くのは圧倒的に女性が多く、その多くは子どもをもちます。スウェーデンで1歳から6歳までの子どもが学ぶ就学前教育施設と小学校が閉鎖されなかったのは、それが大きな理由です。就学前の子どもの90パーセント以上は就学前教育施設に通っており、スウェーデン統計局によると、就学前教育施設と小学校を閉鎖した場合、0歳から12歳までの子どもをもつ11万5000人以上の介護従事者(全介護従事者の約3分の1)に影響が及ぶことが予測されました(Statistics Sweden 2020b)。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、国民は「わずかでも症状がある人は自宅で療養すること」「可能なら在宅勤務を行うこと」を求められました。介護従事者は「在宅勤務」はできませんが、症状があれば家にいなければなりません。高齢者は重症化するリスクが高いからです。そして回復後も最低2日間は仕事に戻ることができません。

 スウェーデンでは通常、病気休暇を取得した場合、収入を補償する保険が適用されます。コロナ以前は、病気欠勤の1日めは待機日とされ、保険金は支払われませんでした。また、欠勤8日め以降は医師の診断書が必要になります。一般的に支払われる手当の金額は収入の8割相当で、2週間以上病気で欠勤した場合には雇用主が社会保険庁に報告し、同庁から疾病手当が支払われる仕組みになっています。

 この疾病手当について、政府は感染拡大の早い段階で待機日を廃止するとともに、医療機関の負担を減らすために病気欠勤の14日目までは医師の診断書を不要とすることを決定しました。感染拡大のリスクを減らし、軽症者に自宅療養を促し、かつ国民が経済的な損失を被ることがないようにするためです(Ministry of Health and Social Affairs 15 March 2020)。この暫定的なルールは9月30日まで適用されます。

 通常、疾病手当は収入に応じて支払われ、個々の支払額を算定する社会保険庁の手間を省くためと考えられますがその金額は一律となっています。金額が低すぎるとの不満を受けて、1日当たり700スウェーデンクローナ(70米ドル)から804スウェーデンクローナ(80米ドル)に引き上げられました(Ministry of Finance 7 May 2020)。

 待機日の廃止と公衆衛生庁による病気休暇取得推奨が奏功し、4月のある週には、疾病手当の申請者数が通常の約2倍に上りました。その背景には新型コロナウイルスの感染拡大があると社会保険庁はみています(SVT 9 April 2020)。

 コロナ以前はあまり一般的ではなかった保菌者手当(一般的に危険とされる感染症に感染した人または感染した可能性がある人に支払われる手当)の申請者も増えており、1月には1週間当たり10人足らずでしたが、3月には通常よりも増加し、さらに4月のある週には470人が申請しました。

 さらに、親が病気の子どもを在宅で世話するために休職した場合、通常は最大で120日間、社会保険庁から臨時両親手当を受け取ることができます。ただし受給できるのは子どもが12歳未満の場合に限られ、休職8日目以降は医師の診断書が必要です。また、子どもが感染を拡大させる恐れがある場合は、親に追加の手当が支給されます。

 この臨時両親手当についても臨時法が施行され、4月25日以降は親が病気の子どもを在宅で世話するために休職した場合、収入の約9割相当を受け取ることができるようになりました。また、病気または感染による症状が7日以上続いた場合には医師の診断書は不要になりました。

 社会保険庁によると、今年1月から3月までの間、臨時両親手当の支払いは著しく増加しました。新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、社会全体が子どもの病気により注意を払うようになったことが主な理由とみられます(Social Insurance Agency 2020)。

 疾病手当を受けられることで、軽症でも自宅で療養する正社員は増加しました。感染者が自宅にいれば、感染拡大を防ぎ、高齢者を感染から守ることができます。一方、有期雇用労働者は疾病手当が支給されない可能性があるため、簡単に仕事を休むことができません。時給制の有期雇用労働者が手当を受けられるのは、勤務期間内に病気になった時だけです。しかも手当を申請するにはそのことを証明しなければなりませんが、証明が困難な場合もあります。高齢者施設では、正職員が病気休暇を取得した場合、不確実な条件で雇用された有期雇用者が休んだ正職員の穴埋めをすることになりますが、そうなると何人もの職員が介護に携わることになり、サービスの連続性は低下します。そのほかにも、有期雇用労働者については、それぞれが異なるセクションや施設に勤務しているため多くの高齢者と接触していることになります。また、職を失うことを恐れて「面倒な人」と思われることを避けたがる傾向にある、といった問題点も指摘されています。

高齢者介護職の労働環境改善に向けて

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐには、教育、知識、介護従事者としての力量が不可欠です。感染症や防護具について入居者に質問されたら答えることができなくてはなりません。しかし、施設職員の多くが時給で働く有期雇用労働者であれば、介護サービスの連続性は低下します。また、高齢者介護について、感染した入居者への対応や防護具の適切な扱いに関して雇用者と職員の間で対立が起きた例はこれまでにも複数確認されていますが、時給で働く職員が労働環境の改善や保護を求めることは、正職員よりも難しいでしょう。

 高齢者介護という仕事に対する社会の評価は決して高いとは言えません。高齢者介護職に従事している人の大半は女性ですが、地位は低く、労働環境にも問題があります。低賃金で重労働のうえ、他の職業に比べて病気になったりケガをしたりすることが多く、人手が不足しているのです。さらに職業上求められる資格も低く評価されることがしばしばで、多くの職員が不安定な雇用条件の下で働いています。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、以前から人手不足に苦しんでいた医療・介護分野、とりわけ高齢者介護の分野は大きな影響を受けました。同時に、他の多くの分野でも解雇や人員削減が行われ、失業者が増えています。そうしたなか、高齢者介護職の魅力を高めて高齢者介護の担い手を増やすため、勤務時間内に有給の教育や訓練の機会を提供するなどの施策が進められています(Ministry of Finance 12 May 2020)。

 たとえば職員は、必要に応じて勤務時間中に補助看護師や准看護師になるための教育を受けることができます。職員が研修で職場を離れている間のコストは中央政府が負担します。この取り組みはスウェーデン地方自治体と地域協会(Swedish Association of Local Authorities and Regions)とスウェーデン地方自治体労働者組合(Swedish Municipal Workers’ Union)の提言に基づいたもので、対象者は1万人に上る見込みです。

 また政府は、教育・訓練の場を十分に確保するため、2020年の第4四半期に、地域の成人向け職業教育機関において1万人がパートタイムで医療と介護について学べるようにするための資金援助を行う計画です。実施にかかる費用は、2020年は中央政府が全額を、2021年は地方自治体が3割を負担します。

 さらに、成人向けの全寮制教育機関フォルケホイスコーレでの職業教育・訓練を医療・介護分野を中心に拡大し、半年間のコースを新たに1,000程度開設することも検討されています。費用は中央政府が全額負担し、地方自治体の負担は発生しない予定です。

【執筆者紹介】

アニタ・ニーベルグ 氏 Ms.Anita Nyberg

◇役職

ストックホルム大学 ジェンダー研究センター 名誉教授

◇経歴
 1995年
女性と男性の間の経済力と経済資源の分配に関するスウェーデン政府委員会書記長任命
 2005年
同政府委員会に再参画
~2007年
ストックホルムの国立労働生活研究所勤務
 2015年
女性と男性の間の経済力と経済資源の分配に関するスウェーデン政府委員会長官(事務総長)に就任。スウェーデン国報告書を作成。
 2018年
第45回国際福祉機器展H.C.R. 2018に併催された国際シンポジウム「仕事と育児・介護の両立支援~その現状と対策~」において、スウェーデンから招聘し、同テーマに基づいてスピーチ。
     

現職に至る

参考文献

Folkhälsomyndigheten (2020) Veckorapport om covid-19, vecka 28.

https://www.folkhalsomyndigheten.se/globalassets/statistik-uppfoljning/smittsamma-sjukdomar/veckorapporter-covid-19/2020/covid-19-veckorapport-vecka-28-final.pdf

Kommunal (2020) ”Hög sjukfrånvaro i Stockholms äldreomsorg”

https://www.kommunal.se/sok?keys=h%C3%B6g+sjukfr%C3%A5nvaro+i+stockholm

Krisinformation

https://www.krisinformation.se/en/hazards-and-risks/disasters-and-incidents/2020/official-information-on-the-new-coronavirus/sa-minskar-vi-smittspridningen)

Ministry of Finance (7 May 2020) Reinforced measures for employees and businesses. Available at:

https://www.government.se/press-releases/2020/05/reinforced-measures-for-employees-and-businesses/

Ministry of Finance (12 May 2020) New measures to strengthen care of the elderly and health care during the COVID-19 crisis.

https://www.government.se/press-releases/2020/05/new-measures-to-strengthen-care-of-the-elderly-and-health-care-during-the-covid-19-crisis/

Ministry of Health and Social Affairs (15 March 2020) Sickness benefit standard deduction temporarily discontinued. Available at:

https://www.government.se/press-releases/2020/03/sickness-benefit-qualifying-day-temporarily-discontinued/

Prime Minister's Office (6 April 2020) Strategy in response to the COVID-19 pandemic. Available at:

https://www.government.se/articles/2020/04/strategy-in-response-to-the-covid-19-pandemic/

Socialstyrelsen (2020) Vård och omsorg om äldre. Lägesrapport 2020.

https://www.socialstyrelsen.se/globalassets/sharepoint-dokument/artikelkatalog/ovrigt/2020-3-6603.pdf

Social Insurance Agency (2020) Kraftig ökning av vab. Available at:

https://www.forsakringskassan.se/privatpers/!ut/p/z1/dYzBCoJAFEW_ZpbNe6aFtBsMDAsqXGhvE6NMo2QzMk4KfX1Cq6Du7lzOvUBQAhk5tlr61hrZzXyh9TXabZMgTXAfp-EKxfkUhNFxmWU5QgEENCv4JwIhA9KdrT5vwlRhrIGcuimnHH-6uW6874cNQ4bTNHFtre4Ur-2D4a9JYwcP5bcJ-TBCfzevgyoWb6WL7s0!/?1dmy&mapping=%2Fprivatpers%2Fnyhetsarkiv&urile=wcm%3apath%3a%2FContentSE_Responsive%2Fnyheter%2Fkraftig-okning-av-vab

Statistics Sweden (2020a) Yrken i Sverige. Available at:

https://www.scb.se/hitta-statistik/sverige-i-siffror/utbildning-jobb-och-pengar/yrken-i-sverige/

Statistics Sweden (2020b) Skolstängning kan påverka 115 000 vårdanställda. Available at:

https://www.scb.se/om-scb/nyheter-och-pressmeddelanden/skolstangning-kan-paverka-115-000-vardanstallda/

SVT (9 April 2020) Rekordmånga vill ha sjukpenning.

https://www.svt.se/nyheter/rekordmanga-vill-ha-sjukpenning

Sweden (2020) Elderly care in Sweden.

https://sweden.se/society/elderly-care-in-sweden/

SSzebehely, Marta (2020) Coronakrisen blottar brister i äldreomsorgen. Available at:

https://www.su.se/om-oss/press-media-nyheter/nyheter/coronakrisen-blottar-brister-i-%C3%A4ldreomsorgen-1.497600