文字サイズ

02.英国におけるコロナ禍が介護・福祉に与えた影響について

世界の福祉現場のいま

英国におけるコロナ禍での介護の問題について、日本の皆さんにお伝えできることをうれしく思います。この機会を与えてくださったことに感謝します。本稿は包括的な概観ではなく、無給の介護者に焦点を当てて英国の現状を断片的に記したものです。

English

新型コロナウイルス感染症がイギリスの社会福祉制度(特に介護者)に与えた影響

 新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、イギリス政府は国民の仕事と収入を守るための対策を速やかに講じました。たとえば、事業者がロックダウンによって働けなくなった従業員の給与の80%を支払うための補助制度、自営業者支援制度、企業向け融資制度などです。これらの制度は10月で終了する予定ですが、現在、継続の是非をめぐって議論が行われています。

 イギリスの医療・介護制度は、特にロックダウンが始まった当初は非常に切迫した状況にありました。新型コロナウイルスの感染による入院患者が増えるにつれ、国民保健サービス(NHS)を守るため、多くの高齢者が病院から介護施設に移されましたが、その結果、介護施設で感染者が急増することになりました。新型コロナウイルスによる人口100万人あたりの死者数は、日本では11人と世界で138番目ですが、イギリスは612人と世界で6番めの多さです。

 また、英国では「医療サービスは介護よりも優先されるべき」との認識から、介護施設や在宅介護よりもNHSに対して、より多くの資金や個人防護具、感染予防策に対する支援が投入されました。こうした現実を受けて、先延ばしにされてきた社会的介護への財政支援およびケアのあり方に関する議論を前進させようという動きが起きています。

英国社会全般への影響

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、地域で活動するボランティアは急増しました。地域社会はパンデミックが落ち着いた後もボランティア活動が継続されることを望んでいます。「ボランティアスコットランド」が7月に発表した報告書によると、新型コロナウイルスの感染拡大後、スコットランド人の4分の3が、何らかのかたちでボランティア活動に参加しました。仕事が再開され、冬が近づきつつあるなか、活動を持続させるにはどうしたらよいのかを考える必要があります。

 生活保護に相当する給付制度「ユニバーサル・クレジット」の申請件数も急増しています。3月16日から5月までの間に「ユニバーサル・クレジット」を申請した人の数はおよそ200万人と、通常のおよそ6倍でした。コロナ禍で追加支出が増え、困窮の度合いが増していることに鑑み、給付額は週約20ポンド増額されています(増額は2021年3月末で終了)。しかし、介護者給付など、従来型の給付金は増額されませんでした。ただしスコットランドでは、介護者を対象に、6か月間で260ポンドの追加給付が行われました。

 生活保護に相当する給付制度「ユニバーサル・クレジット」の申請件数も急増しています。3月16日から5月までの間に「ユニバーサル・クレジット」を申請した人の数はおよそ200万人と、通常のおよそ6倍でした。コロナ禍で追加支出が増え、困窮の度合いが増していることに鑑み、給付額は週約20ポンド増額されています(増額は2021年3月末で終了)。しかし、介護者給付など、従来型の給付金は増額されませんでした。ただしスコットランドでは、介護者を対象に、6か月間で260ポンドの追加給付が行われました。

 失業率は現在4%超ですが、10月に政府の支援制度が終了したら増える可能性があります。失業者で多いのは、65歳以上の高齢労働者、パートタイム労働者(主に女性)、自営業者で、それぞれのグループにおいて介護者はかなりの割合を占めています。なお、積極的に求職活動をしていない者(その多くが介護者)も相当数いますが、その数は失業者数に含まれていません。

 ロックダウンによって駐車料金やビジネスレート(地方自治体の固定資産税)などの収入が落ち込んだことから、地方自治体の税収は減少しています。6月の住宅・コミュニティ・地方自治省の発表によると、新型コロナウイルス感染症の影響で、イギリス全体で55億ポンドの税収減が見込まれる一方で、2021年4月までに必要な追加支出は36億ポンドにのぼると予測されます。追加支出(次のパラグラフを参照)や税収減を補うための追加支援も行われましたが、多くの地方自治体は財源不足を訴えています。また、追加支出のなかでは成人対象の社会的介護に関する支出が最も多くなると予測され、地方自治体の今後の支出については深刻な懸念が持たれています。

 今年5月、英国政府は地方自治体の支出を補うための追加の財政支援として、6億ポンドの感染抑制資金(Infection Control Fund)を拠出することを発表しました。主に介護施設の危機的状況に対応すること、また地域社会での介護にかかる追加費用の柔軟な支援を可能にすることをめざしたものです。さらに地方自治体にはコロナ対策費として32億ポンドの支援も行われました。しかし予想される支出額を補うには十分とはいえず、多くの地方自治体は財政危機に直面しています。新型コロナウイルスは、長年十分な予算が配分されてこなかったイギリスの社会的介護制度がいかに脆弱であるかを明らかにしたのです。

感染拡大で介護者に何が起こったか?

 新型コロナウイルス感染症の発生以降、介護にかかわる人の数は著しく増えています。そもそもイギリスでは、感染拡大前から、国民の17%が無給の介護に従事していました。約910万人、すなわち成人の6人に1人が無給で介護を行っている計算で、支援を受けられないと、介護者は経済面、健康面、福祉面で重大な影響を受ける可能性があります。5月に行われた世論調査によると、国民の9%が「無給で介護を行っているが、介護を始めたのは新型コロナウイルス感染症の発生後である」と回答しました。およそ450万人が無給で介護を行っている計算で、しかもそのうちの280万人は仕事をしながら介護をしています。感染症発生前から介護を行っていた人と合わせると、現在英国では国民の26%、すなわち1,360万人(成人の4人に1人)が介護に従事していることになります。

 介護者の多くは、深刻な健康状態のパートナーや高齢の親、障害のある子どもなどの被介護者とともに自宅で自主隔離を行ったと報告しています。デイケア施設が閉鎖されたり、介護サービスの提供が中止されたり、自宅でサポートしてくれる介護職員が個人防護具を持っていなかったりしたからです。また、介護者の多くは在宅勤務をしており、時には子どもの自宅学習の面倒も見なければなりませんでした。感染症をうつす恐れがあるため、離れて暮らす人の介護ができなかった介護者もいました。

介護者に何が一番大変だったかと尋ねたところ、以下の回答が得られました。

  • ストレスと介護に対する責任感への対処(71%)
  • 心身の健康への悪影響(70%)
  • 介護から離れる時間を取れないこと(66%)

4月に「ケアラーズUK」が行った調査から、介護者がコロナ禍によって次のような重大な影響を受けていることはわかっていました。

  • 介護に費やす時間が増えた(70%)
  • 感情面やモチベーション面でサポートすることが増えた(69%)
  • 介護に費やす費用が増えた(81%)
  • 介護を重荷に思い、燃え尽き症候群に陥るリスクがあると感じている(55%)

 さらに6月にシェフィールド大学、バーミンガム大学、ケアラーズUKが共同で行った研究によると、食事に困っている介護者が少なくなく、介護者はフードバンクの最大の利用者グループの一つであることが判明しました。

 これらの調査結果は、いずれもコロナ禍での介護の厳しい現実を示しており、英国政府はこれまで以上に介護者の支援策を検討していく必要があります。さもないと、介護者は現在のみならず将来にわたっても深刻な影響を受けることになります。長く待ち望まれてきた―そして長く先延ばしにされてきた―社会的介護に関する議論を行うにあたっては、何よりも介護者を考慮に入れたうえで、いかに介護を持続していくかを考えなければなりません。

【執筆者紹介】

マデレーン・スター 氏 Ms. Madeleine Starr, MBE

◇役職

ケアラーズUK 事業開発・イノベーション担当ディレクター

◇経歴

 2000年にケアラーズUKに参画し、以降ケアラーと雇用の問題に取り組んでいる。
 また、「ケアラー雇用権キャンペーン」を継続的に実施し、成功に導いた実績や、2009年に「Employers for Carers(ケアラーの雇用者)」メンバーフォーラム立上げの尽力により、同年Working Families(英国のワーク・ライフ・バランス推進団体)のパイオニアの一人として認められた。
 現在は、健康、介護と第3セクターにおけるデジタル・イノベーションの取組みを推進している。

 2012年
雇用問題への貢献に対して、MBE(大英帝国5等勲爵士)を受勲
 2017年
第44回国際福祉機器展H.C.R. 2017併催の国際シンポジウム「高齢者の家族介護の現状とその支援について~ヤングケアラーやダブルケアなどの課題を考える~」において、同テーマに関する英国の状況についてスピーチ

ケアラーズ UK (Carers UK)

  • 50年近く、地域、国家、国際レベルでケアラー(家族等の無償の介護者)の生活向上を目指したキャンペーンやロビー活動を通して、情報、アドボカシー、トレーニング、コンサルティングサービスを提供する英国の非営利団体。